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運命とはそういうもの④

星斗がなんとか平常心を取り戻すと、美代から、眞門のテーブル席のオーダーの料理が出来上がったと声がかかった。 眞門らがオーダーしたスペシャルな料理とは、エビやホタテ、白身魚の魚介系のフライから、豚ヒレやサーロインなどの肉系フライ、キノコや玉ねぎの野菜系フライに、こんにゃくや紅生姜、バニラアイスなどの変わり種のフライまでが合わさった、合計22種類にも及ぶ揚げ物が大皿に山盛りに盛られたスペシャルミックスフライ定食だ。 そのボリュームは見た目からしても圧巻で値段も驚きの安さから、美代の店を代表するメニューでもあり一番人気のメニューでもあった。 しかし、配膳係の星斗にとって、配膳する際に皿からフライが零れ落ちやしないかと、いつもヒヤヒヤする一番の苦手なメニューでもあった。 星斗は悲しい気持ちを抑え込んだまま、眞門のテーブル席に配膳に向かった。 「おまたせしました」 そう言って、まずは慣れた手つきで、一つ目のスペシャルミックスフライ定食のトレーを愛美の前に置いた。 次は眞門の分を配膳する為、一旦厨房に取りに戻る。 「うわー、ホントにすごいーっ!! 私、全部食べれるかなー」と、愛美は、山盛りのミックスフライのボリュームを見て驚くと共に子供のようにはしゃいだ。 「・・・いや、絶対無理だろう・・・」 眞門は初めて目にするボリュームのありすぎる料理に、ただ唖然とした。 「・・・でも、私は食べちゃうもんね。だって・・・妊娠したのっ! 頑張って、二人分食べるよっ!」と、愛美が屈託のない笑顔で眞門に伝えた。 「えっ・・・」 眞門は突然の愛美の告白に驚いた。 「昨日言ったでしょ、報告したいことがあるって。私、妊娠したの」 その時だ。 ガチャンーーっ!! 星斗は配膳してきた大皿を眞門の前に滑り落としてしまった。 絶妙な配置で山盛りに乗せられていた数種類にも及ぶフライが眞門のテーブルの前に無惨に散らばった。 しかし、星斗はそれを謝るどころか、自分でも信じられないくらいのショックを受けて呆然と立ち尽くした。 今、彼女が妊娠したって・・・。 それって、眞門さんが父親ってことだよね・・・??? 分かりやすい動揺を見せた星斗が心配になって、さすがの眞門も星斗に視線を合わせた。 今日初めて、星斗と眞門の視線が重なった。 「!」 星斗は今にも泣きそうな瞳で、思わず眞門を睨み付けてしまった。 その瞳は悲しみでいっぱいに包まれる。 最低な人だと、いわんばかりに睨みつけた。 嘘つきな人だと、いわんばかりに睨みつけた。 どうして、こんな素敵な女性がいたのに、あの夜、俺に首輪をつけたんですか? どうして、愛している女性がいるのに、あの夜、俺をあんなに激しく抱いたんですか? どうして、俺の手を捕まえてパートナーになってくれなんて言ったんですか? 期間限定だから良いって思ったんですか! ・・・俺にはまだあなたが必要だったのに・・・ こんな結末を用意してるなら、どうして、俺をあなた好みのSubに躾けしようなんてしたんですか!! 眞門に裏切られた。 星斗は眞門を許せないと思った。 一刻も早く、こんな所から逃げ出したい。 星斗は料理をダメにしてしまったことを謝ることもなく、呆けたように店の出入り口に向かうとそのまま外へ出た。 外に出ると、我慢していた涙が自然と込み上げてきた。 「イヤだ・・・眞門さん・・・イヤだ・・・俺を捨てないで・・・眞門さん・・・俺、あなたのことが好きなんです・・・だから、お願い、眞門さん。俺をまだあなたの手から解放しないで・・・!」 騙されていたのに・・・。 なのに、Subの性質のせいか、まだ眞門に縋りたくなる自分がいる。 情けなくなるが、それが星斗の本心だった。 星斗は思った。 もう、この世界からいなくなりたい。 すべてのことがどうでも良くなって、星斗は街をさまようように歩き出した。

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