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運命とはそういうもの⑥
「俺が今から話すことを絶対に引かないで聞いてくれよ」
「ああ、なんだよ?」
「・・・星斗に軽蔑された目で見られた時、俺、興奮したんだ」
「へ?」
「ああ、星斗は俺のことが好きなんだって。俺にすごく腹を立ててる。なんで、俺を捨てるんだっ、捨てないでくれって訴えてるよ・・・って、それが伝わって来た瞬間、心が嘘みたいにすごく満たされたんだ。めちゃくちゃ嬉しかった。俺はこれをずっと求めてるって・・・」
「お前・・・」
「愛美に妊娠したって聞かされたのに、何のショックも受けなかった。あんなに好きだったのに。それよりも、星斗の軽蔑してきた瞳にずっと興奮してた・・・星斗があの瞳のままで『俺には眞門さんしかいないのにっ!』って、そう言って、また店に戻ってきて、泣きついて来ないかなって・・・そしたら、ご褒美をいっぱいあげるのになって・・・そんな最低なことばっかり考えてた・・・」
眞門は自分自身に呆れたようだった。
「俺、Domなんだな・・・あの父親と同じなんだ・・・Domって本当に最低な生き物だな・・・Subが苦しんでいるのに興奮するなんて・・・。
それを喜ぶだなんて・・・。
何をどう頑張っても俺は最低な生き物でしか生きていけないんだな・・・」
眞門は自分の内にずっとあったDomの苦悩を初めて口にした。
「眞門・・・」
寺西はようやく理解が出来た。
眞門がここ最近、心が不安定になっていた原因はここにあったのかと。
眞門は父親と過去に何かがあったようだ。
それが原因で、眞門はDomを最低な生き物だと思い込んでいる。
そして、そんな最低な生き物にはなりたくないという思いから、今まで必死に自分の内にあるDomの欲求を抑え込んできたのだと。
しかし、星斗と出会ったことで、Domの喜びに目覚めてしまい、眞門の信念が崩れて行く今、抑えることのできないDomの欲望が暴走となって始まっていたのだと。
「それで、その後、渋谷さんに連絡をきちんと取って、ちゃんと真実を話して謝ったんだろうな?」
「出来るわけないだろうっ。こんな最低な奴がSubを愛する権利なんてどこにあるんだよ?」
「眞門・・・」
「星斗クンには幸せになってもらいたいんだ。良い子だよ、あの子、凄く。ニートしちゃってるけど。でも、そこは不器用だからで、一所懸命に生きてる感じはすごく可愛い」
眞門は星斗を思い出したせいか、険しかった表情が一瞬だけ優しくなった。
「俺なんかじゃなく、もっと優しい王子様みたいなDom・・・そうだな、星斗クンの弟みたいなDomに星斗クンは出会うべきだよ」
寺西は思った。
ここは医者としてアドバイスしてやるべきなのか?
それとも親友として発破をかけるべきなのか?
答えは簡単だ。
今夜は親友を選んだのだ。
「お前、本当にそれで良いのか?」
「ああ」
「渋谷さんの首輪がなくなってもか?」
「・・・・・」
「お前、渋谷さんの首輪がなくなった姿を見ても発狂しないでいる自信があるんだろうな?」
「・・・・・」
「カッコつけてんじゃねえぞ!!」
寺西は眞門を思いっきり叱り飛ばした。
「お前、本当に平気なんだな?」
「・・・・・」
「パートナーのSubの首輪がなくなるって、Domにとってどういうことなのか? それが分かって、今の言葉を口にしたんだろうな?」
「・・・・・」
「お前の物じゃなくなるんだぞ」
「・・・・・」
「渋谷さんはお前の物じゃなくなるんだぞ!」
「・・・・・」
「お前は何もせず、また指をくわえたまま、愛美ちゃんの時のように渋谷さんを誰かも分からないDomに持っていかれるんだぞっ」
「・・・・・」
「お前は生まれた瞬間から、最低なDomとしてしか生きていけないんだろう?」
「・・・・・」
「だったら、手に入れたいものは手に入れろ!」
「・・・・・」
「それがDomだ」
「・・・・・」
「手に入れたいものも手に入れられないDomに生きてる価値なんて何ひとつねえよ!!」
寺西は眞門を挑発するように見つめた。
寺西はDomとして生きていく覚悟を決めろ。
そう伝えたかった。
Domとしてのお前が選ぶのは、Subのためを、渋谷さんのためを想うことじゃない。
Domのお前が選ぶのは、最低な生き物だと思っていてもDomとして生きていくこと。
お前がどんなDomであっても、渋谷さんを手にしたいのであれば手に入れろ。
それがDomだ。
何も悪くない。
それで良い。
それがDomという生き物だ。
寺西はそう伝えたかった。
眞門に何かが伝わったのか、急に椅子から立ち上がると、部屋を飛び出していった。
眞門が出て行った後、寺西はフーと大きく息を吐くと、「なんだよ、やっぱ、俺の診断ばっちりじゃん。あいつら、相性バツグンじゃん。名医にヒヤヒヤさせんなよ」と、少し安堵したように呟いた。
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