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運命とはそういうもの⑧

寺西の家を飛び出した眞門は寺西クリニックの駐車場に停車してあった愛車にすぐさま乗り込むと、スマホを取り出し、星斗のスマホに電話をかけた。 呼び出しのコールが永遠に続く。 星斗が通話に出てくれる気配はない。 「クソ・・・っ」 小さく洩らすと、眞門は車のエンジンをかけて、星斗の自宅に向かって、車を発進させた。 ※  ※ 首輪を失った星斗は自室に戻ると、生きる屍のように、ベッドに寝転がった。 よく例えで使われる、『突然、真っ暗闇の海のど真ん中に放り出された気分』って、こういう気持ちのことを言うんだろうな。 生きる気力を失くしてしまった星斗は、自分の気持ちをまるで他人事のように分析していた。 何も見えない、ただ沈むだけ。 誰も助けてくれない、もう沈んでいくしかない。 誰も見つけてくれない、このまま永遠に海の底で眠るだけ。 もう生きたくない。 明日を生きる希望がない。 星斗は本当に永遠に眠りにつくかのような気分に浸っていた。 と、星斗のスマホが眞門の着信を知らせた。 画面に表示された眞門の名前を見ても、星斗には何の感情も湧いてこなかった。 今更、何を話すんだ? 実は本命の相手と交際してました。 妊娠させました。 もう会えません。 それを説明されたところで、俺がどうなるの? 所詮、俺はお情けの相手。 分かってる。 だったら、やっぱり・・・最後に俺を抱く前に正直に話して欲しかった!! 結局、眞門からの着信は無視し続けた。 着信のコールが鳴り止むと【話がしたい】【謝りたい】【会いたい】【今から行く】と、眞門からの短いメッセージが連続で届いて、星斗のスマホの画面に次々と表示された。 だから、何の話だよ・・・。 何を謝るんだよ・・・。 首輪が取れた俺はもう、眞門さんのものじゃないんだ!! 眞門と決別した星斗は、眞門のメッセージの返信も無視をした。 と、星斗の部屋のドアがノックされた。 「少し良いか?」と、断りを入れると、明生は部屋のドアを開けた。 「・・・あのさ・・・」 明生が口にした時、遠くから、雷の轟音が聞こえてきた。 明生はビクッと反応し、思わず身を竦めた。 「さっき、スマホに入れてある天気予報のアプリから知らせがきて、今夜、この一帯は雲行きが怪しくなるらしいんだ。その・・・大丈夫か、もうひとりで? 俺、雲行き次第では今夜はもう力になってやれないかもしれない」 「ありがとう。充分過ぎるくらいに助けてもらったから、もう大丈夫だよ」 「悪いな。とりあえず、今夜はゆっくり休めな」 そう言うと、明生は星斗の部屋のドアを閉め、急いで自分の部屋に逃げ込んだ。 ※  ※ 星斗の自宅に向かって走らせる車の中で眞門は大量の冷や汗をかいていた。 向かっていく方向の上空が時折、炎のような赤白い光が蠢くように輝く。 「マジか・・・」 上空が赤白く光る度に、眞門の呼吸と動悸が早くなる。 目の前の信号が赤になった。 眞門は信号に応じてブレーキを踏んで車を停止させると、スマホを取り出し、天気予報のアプリを起動させた。 眞門は天気予報のアプリに搭載されている機能を使って、雨雲の行方を調べた。 星斗が住む街に雨雲が覆い始めている。 そして、落雷が予想されるマークが数えきれない程に表示されている。 眞門はそれを見ただけで恐怖で体が竦んだ。 本当に子供の頃から、何をどうやってもには絶対に慣れない。 あいつが空から落ちてくる日は頑丈な建物の中に避難しましょう。 小学校の低学年からそう教えられるぐらい、あいつは俺達(=Dom)の天敵だ。 ゴロゴロゴロ・・・。 雷鳴がかすかに聞こえてきた。 ダメだ。 まだ、こんな小さな音なのに、恐怖で、すでに体が思うように動かなくなってくる。 信号が青に変わった。 眞門はなかなかアクセルを踏み込めない。 自分であの空の真下に向かって突っ込んでいくのかと思うと、恐怖で足がすくむのだ。 小学校に入学した同時に、重要事項のひとつとして真っ先に教えられる。 Domは自分でコントロールが出来ないものにはめっぽう弱い生き物だ、と。 なので、コントロールが出来ない自然界の現象にDomは最も恐怖を感じてしまうのだ、と。 Domは自然界の力の前では支配される側となり、どうやっても、あがらうことのできない自然界の力にDomはなすすべないことを知り、恐怖を感じてしまうのだと。 そして、その自然界の力の中で、Domが最も恐怖を感じてしまうのが雷だと教えられた。 雷は一度発生してしまうと、その姿が無くなるまではコントロール不可能の生き物となる。 ただ、怒り狂ったように、何度も何度も怒りの鉄槌を天から落としてくる。 一方的に天から怒りを浴びせられるそれは、Domにとってただの恐怖。 DNAに組み込まれたDomの弱点。 下手すると、恐怖心で心が壊れてしまう可能性があるので、雷が発生する日はなるべく建物の中に篭もりましょう。 小学生の頃から身を守る重要事項として真っ先に教えられる、Domとして生きていく為の基本事項。 眞門は震える手で星斗に送信したメッセージを確認した。 星斗がメッセージを読んだ形跡がない。 絶対に星斗に会って、きちんと話しないと。 星斗を失いたくないんだって、伝えないと。 眞門はそう覚悟を決めると、アクセルを踏み込んだ。

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