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運命とはそういうもの⑨
「ギャアアアーーーっ!」
隣の部屋から明生の絶叫が聞こえてきた。
遠くに聞こえていたはずの雷鳴が時間が経過すると共に徐々に近づき、今は青白い閃光が走った数秒後、真上から雷の轟音が響き渡った。
あいつ、またイヤホンしてないのか・・・。
ベッドで寝そべったまま、時折、絶叫する明生の悲鳴を聞きながら、心配する星斗。
明生にイヤホンを渡しに行ってやらなきゃ。
そうは思うのだが、生きる屍状態となってしまった星斗はベッドから起き上る気力すら湧いてこない。
明生、ごめんな。
俺は相変わらずのダメダメ兄ちゃんだ・・・。
星斗は恩人の明生に対して、心底申し訳なく思った。
と、また、星斗のスマホが着信を知らせた。
眞門からだ。
星斗は勿論、無視した。
なぜか、着信のコールはすぐに収まった。
その直後、【着いた】とだけ、星斗のスマホに眞門からのメッセージが届いた。
【着いた】ってなんだよっ!
それじゃあ、何が言いたいのか分かんないよっ。
いつもなら、【慌てないでいいからね。気を付けておいでよ】なんて、優しいメッセージくれたのに。
・・・そっか、もう、全部バレた俺には良いDomぶらなくても良いもんな。
星斗は当然、眞門を以前のように素敵な紳士だとは思えない。
ただの嘘つき。
酷い人。
星斗がそんな恨み言を唱えていると、また、青白い光線がパッパッと走った瞬間、ゴゥゥォォォォォォォーーーーーーーンンンンンッ!!!と、凄まじい雷鳴が響き、後を追いかける様に地響きが唸った。
これは近くで落雷したな・・・。
被害が出てないといいな。
生きる気力を失くした死人同然の星斗でも恐怖を感じてしまうくらいの落雷だった。
明生は今の落雷は大丈夫だったかな・・・?
絶叫が全くなかったけど、今ので心臓が止まったりとかしてないよな・・・?
様子を見に行ってあげなきゃ。
星斗はさすがに明生が心配になって、ベッドから起き上がった。
でも、雷が怖いって、明生にとったら死活問題だよな。
女性のDomが怖がってる姿はギャップで可愛いかもしれないけど、男のDomが怖がってる姿なんて、絶対モテない案件だよ。
さすがの眞門さんだって、雷が怖いだなんて怯えた姿を見せたら100%フラレる。
てか、怯えた姿を見せまくって、今夜フラれてしまえ!
そんな悪態をまた心でついた時、あることに気がついた。
、
「・・・・・」
・・・ん? 眞門さん!?
星斗はもう一度、眞門からのメッセージを確認した。
【着いた】
・・・ひょっとして、俺の家まで来てるってこと!?
【着いた】って、短いメッセージになってるのは、それしか送信出来ない状態だってこと・・・??
眞門さんも雷がやっぱり怖いってこと・・・?
星斗は慌ててベッドから飛び降りると、眞門の身を案じ、部屋を飛び出して、急いで玄関に向かった。
星斗はすぐに家の外に出た。
打ち付けるような激しい雨が降り、ゴロゴロと蠢くように空が鳴り響いている。
激しく降る雨で視界が悪い中、星斗は眞門の愛車を探した。
すると、近くに眞門の愛車が本当に停車している。
星斗は着ていたパーカーのフードを頭から被ると、眞門の車に向かって走った。
星斗は、打ち付ける雨の音に負けないように、眞門がいる運転席の窓ガラスを強く叩いた。
「眞門さんっ、眞門さんっ、大丈夫ですか!!」
気がついたのか、それに反するように車の窓ガラスが下に降りた。
「眞門さん、大丈夫ですか? ・・・!!」
星斗は驚いた。
眞門が顔面蒼白の上、体を怯えたようにブルブルと震わせている。
あの眞門さんが、こんな怯えた姿になるなんて?!
星斗は信じられないと驚くと同時に、眞門に酷い目に遭ったことなどを忘れて、この状況をどうにか救ってあげたいと思った。
「眞門さん、動けますか? なんとか頑張って、助手席に移動できますか?」
眞門はこくりとだけ頷く。
「じゃあ、鍵を開けてください。そして、助手席に移動してください」
その瞬間、また、青白く空が光ると、雷鳴が怒りの鉄槌を下すように辺り一面に響き渡った。
「! うわーっ!」
星斗もあまりの衝撃に思わず声を上げた。
「大丈夫ですか?」
星斗はすぐに眞門の様子を確認した。
「!」
眞門が頭を抱え、ただ、恐怖に怯えている。
言い方は悪いが、ただの情けないDomがそこにいる。
星斗はそう思った。
星斗は不思議だった。
あんなに負けず嫌いの眞門さんがこんなに怯えるなんて・・・絶対に、俺なんかにこんな無様だと思われる姿を見せたくなかったはずだ。
どうして落雷の中、こうなる事が分かってて、俺に会いにきたんだろう?
「ゆっくりで良いんで、助手席に移動してください」
眞門は分かったように、何度か頷くと、素直に助手席に移動した。
それを見届けると、星斗は運転席に乗り込んだ。
「すみません、傘を持たずに出て来ちゃったんで車の中を濡らしちゃいました」
星斗は後先考えず外に飛び出し、雨でずぶ濡れになったせいで、高級車を濡らしてしまったことを心底悪いと思い、とりあえず謝った。
が、その時、また、辺りを青白い閃光が包み込んだ。
眞門は思わず星斗の左腕を両手で掴み、怯えたように星斗に甘える。
ゴォーーーーーーンっ!
またもや落雷の轟音が響き渡った。
眞門が星斗の左腕を掴んだまま、ガタガタと震えている。
まるで、逆の立場になったみたいだ。
フラレ案件だと思ってたけど、こんな情けない眞門さんもちょっと可愛いな。
星斗は、最後に自分が知らない眞門の姿を見れた気がして、なぜか嬉しかった。
「ちょっといいですか」
星斗はズボンのポケットからイヤホンを取り出すと、眞門の両耳につけてやる。
「眞門さんが聴くような音楽はないけど、とりあえず、今は我慢してください。少しは雷の音が聞こえずらくなると思うので」
と、イヤホンを付けた説明をした。
「俺、こう見えて、免許持ってるんで。母ちゃんに就職に少しでも有利に働くようにって、無理やり取らされたんです。なので、今から眞門さんの自宅まで俺が運転していきますね。そのまま下を向いて目を閉じててください。ここから早く離れましょう。そしたら、雷からも離れられます。じゃあ、大音量で曲を流しますね」
そう言うと、星斗は自分のスマホを操作して、普段聴いているお気に入りの曲を再生した。
星斗がゆっくりと眞門の愛車を発進させると、眞門は大人しく車に揺られた。
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