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眞門の趣味
その週末の約束は少し違った。
土曜日に待ち合わせる時間は、眞門から、毎回指定されている。
その理由は眞門が自主的に土曜日も仕事に時間を充てているからだ。
午前中に仕事が済めば昼から、少し長引けば会うのは夕方になる。
しかし、この週末の約束は、なぜか初めて、土曜日の早朝から待ち合わせることになった。
朝早くに、いつもの待ち合わせ場所に向かうと、もうすでに眞門の愛車が停車していた。
眞門を待たせてると思い、星斗は急いで助手席に乗り込んだ。
乗り込むと、「おはよう」と、眞門は笑顔であいさつを返してきた。
「おはようございますっ。あの、お待たせしましたか?」と、星斗。
「全然♪」
語尾が上がり、眞門がニンマリする。
今日はとても機嫌が良さそうだ。
「それで、どうして、今日はこんな朝早くに・・・? 仕事はお休みなんですか?」
「それがさ、明日は星斗クンとどうするかなーって、昨日の夜に考えてたらさ、ふと良いこと思いついちゃってさ、仕事は休むことにしたんだよ」
「はあ・・・」
「俗にいう遠足の前日現象っていうやつ? あんな感じでワクワクしてさ、あんまり眠れなかったよ」
「そうですか・・・」
「今日はね、星斗クンに俺の趣味に付き合ってもらうことにした」
「はあ・・・俺なんかで良ければ全然・・・」
眞門は意味ありげに星斗を見つめた。
「星斗クンじゃなきゃダメなんだよ」
「え?」
「新たなPlayに飛び込まない?」
「新たなPlayですか?」
「絶叫した時点でお仕置きだよゲーム」
「?」
※ ※
「ヤダァァァーーーーーーーーっ!」
星斗は窓から見える景色を見て、恐怖で絶叫した。
星斗は上空3800メートルに浮かぶセスナ機の中にいた。
「絶対に飛び降りませんーーっ!!」
セスナ機のエンジンの轟音に消されまいと、星斗はこの声が届いてくれと言わんばかりに叫んだ。
座る星斗の真後ろには、同じく座った格好でパラシュートの器具で繋がる眞門の姿があった。
眞門の趣味とはスカイダイビングだった。
眞門に騙されて星斗が挑むゲームは、ひとつのパラシュートでふたりの人間をくくりつけて飛び降りる、ダンデムスカイダイビングだった。
「星斗クン、そんなに騒いでたらお仕置き確定だよ」
「いや、もう、これがお仕置きですからっ!」
「大丈夫、俺を信じて」
「そんな問題じゃありません!! 怖いものは怖いんですっ!!」
「ねえ、一緒に空を制覇しようっ」
「空なんて誰も制覇出来るもんじゃありませんから!!」
「飛び出した瞬間、物凄い強者になった気分だよ。俺を止めてみたきゃ止めてみろって」
「だったら、俺は今強者になりたいですっ! 今、この瞬間を止めたいですーーーっ!!!」
星斗は思った。
Domの考えることもやることも意味不明だと。
Subの自分には全く理解出来ないと。
俺はこんな人たちを相手に、これから分かり合わなきゃいけないのかと。
「じゃあ、出発!」
眞門がそう言うと、座ったままで星斗をズル、ズル、と背後から押すようにして、セスナ機の飛び降り口に向かう。
眞門に強引に背後から体を押され、なすすべなく、セスナの飛び降り口に向かわされる星斗。
「えっ、ヤダ、ヤダ、ヤダ、ヤダーーっっっ、うそ、うそ、うそ、うそ、うそ、うそーーーーっっっっっ!」
抵抗しようにも、全く抵抗できないまま、飛び降り口にやってきた。
「ヒエェェェェーーーーっ!!」
暴風が星斗を襲う。
セスナ機から体半分を出す格好になった星斗は分かりやすい悲鳴を上げた。
すると、即座に、眞門に額を押され、上を向く格好にされた。
「星斗、Go !」
「な、なんで、ここでCommand!?」
「これ、多分、俺たちしかやらないPlay」
「意味不明!!」
ふたりはセスナから飛び降りた。
「だから、なんのPlayなんだーーーーーっっっ!」
星斗の叫び声と共に、ふたりはみるみる地上へと落下していった―。
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