62 / 311
眞門の趣味②
「あははははははーっっっ!!」
眞門が自宅のテレビ画面に映る映像を見て、ご機嫌に笑った。
その横で、星斗は「なんて悪趣味だ」と、不機嫌に顔を歪ませる。
眞門が上機嫌で見ているものは、さっき行ったスカイダイビングの映像だった。
上級者の眞門は、スカイダイビングする際、左手首にカメラを装着し、そのカメラでセスナ機から飛び降りた瞬間から地上に着くまでの間の星斗の様子をずっと録画していたのだ。
「・・・星斗クン、顔が引きつりすぎだよ」
「違いますっ、これは強風で顔面がブッサイクに潰されてるだけですっ!」
「じゃあ、怖くなかったんだ?」
「えっ・・・」
「じゃあ、また一緒に飛ぼうよ!」
「・・・・・」
「セックスなんかじゃ、絶対に味わえない興奮だったろう?!」
眞門は目を輝かせた。
「―――――」
そんな興奮、味わいたくなかったんですけど・・・。
星斗は絶句する。
「おかしいなー、Subは好きなはずだよ、スカイダイビング」
「えっ・・・」
「絶叫系のコースターやバンジージャンプなんかも」
「嘘でしょ・・・?」
「だって、Subは死ぬかもしれないギリギリ感? 苦痛を伴うギリギリ感? そんなのが大好物なはずだから」
「―――――」
・・・誰が決めたんだよ。
てか、人によるんじゃないですか。
そんな感じで星斗がずっと死んだ目をしているので、眞門は何かを感じ取ったようだった。
「・・・分かった、星斗クンはこういうの苦手なんだね」と、悟ったように眞門は口にした。
「あの」
「ん?」
「眞門さんは好きなんですか? スカイダイビング。Subが好きなら、普通、Domは苦手な人が多いんじゃないですか? 大体、DomとSubって逆のパターンが多いから」
「まあね・・・。俺はさ、最初に飛び降りた時に勝ったって思って、それで病みつきになった」
「勝った?」
「自然に勝った、大空に勝った、自分に勝った、俺は弱くない・・・俺は普通のDomじゃない。そんな感じ」
「・・・・・」
この人は何でいつもそんなに勝ちたいんだろう?
それがDomという生き物なのだろうか?
星斗はそう思った。
「で、お仕置きはどうしよっか・・・?」
眞門が熱い瞳で星斗を見つめてきた。
当たり前のように負けを認めさせられた気がして、星斗は少し腹が立った。
眞門の熱い瞳を見つめていると、スカイダイビングは最初から星斗にお仕置きをすることが目的で実行されたような気がしてきたからだ。
星斗はリモコンを手に取ると、テレビに流れていた映像をある場面で一時停止した。
「俺、ちゃんとしてますから」
空中を落下している最中、余裕綽々でいる眞門がカメラに向かって、右の親指を立てる、グッドサインをしている。
その手前で、恐怖で顔を引きずらせながらも、星斗は眞門を真似る様に親指を立て、グッドサインをしていた。
「俺、言われた指示はちゃんとしましたから」
落下してる大空を背景に、グッドサインをしているふたりを記念にカメラに収めようと眞門に誘われた一場面だった。
「これで俺の負けってことはないですよね?」
星斗はほんの少しだけ勝ち誇った表情をしてみせた。
眞門は、何度か頷きながら、渋々納得した表情で引き下がった。
「じゃあ、ご褒美は何が欲しい?」
「ご褒美は・・・」
星斗が眞門を見つめた。
眞門がずっと熱く見つめてくる。
あー、俺、やっぱり、眞門さんに見つめられるの好きだな。
この瞳を見てると、眞門さんに吸い込まれたいって、いつも思っちゃうんだよな・・・。
「キスが・・・良い・・・です」
それしか思いつかなかった。
「分かった」
そう言うと、眞門は星斗の顔を少し強引に引き寄せ、星斗に深い口づけを始めた。
舌を絡ませてきて、息が出来ないと思うほどの深い口づけだ。
あー、俺、もうこのまま溶けないかな・・・。
溶けて、眞門さんに吸収されないかな・・・。
眞門さんの一部になりたいな・・・。
Subの性質がそう思わせるのか、近頃はそんなことを思いながら、眞門からのご褒美を星斗は受け取っていた。
口づけを終えると、眞門がまた熱い瞳で見つめてきた。
「星斗クン・・・」
「なんですか?」
「もうひと勝負しよう」
「ええーっ、またですかー?」
と、星斗は思わず不満を洩らした。
「今度は絶対、負けないから」と、自信満々の眞門。
この人、どんだけ負けず嫌いなんだよ。
と、思うと同時に、
俺達、いつから勝負することが目的になっているの・・・?と、星斗は嘆いた。
ともだちにシェアしよう!