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Domの弱点

眞門との関係をどうすれば良いのか? 何にも答えが出せないまま電車を降りて、自宅の最寄り駅の外に出ると、パラパラと弱い雨が降り始めていた。 そう言えば、夜遅くに雷を伴った激しい雨の降る可能性があるって、出かける前に見たテレビの天気予報で言ってたっけ。 それを思い出した星斗は傘を持ち合わせてなかったので、急いで自宅へと向かって走った。 星斗が自宅に着くころには雨が大粒となり激しく叩きつけるような雨へと変わっていた。 帰宅した星斗は風呂に入る前に、一旦、着替えを取りに自室に向かおうと、二階の階段を上った。 そして、明生の部屋の前を通りかかった瞬間、青白い閃光がパッと廊下の窓から差し込んだと思ったら、それと共に空から轟音が鳴り響いた。 ・・・あ、雷。 星斗が気づくと同時に、 「ギャアァァァーーーーっ!!」 と、明生の部屋から悲鳴が聞こえた。 「!」 何事だっ! 星斗は慌てて、明生の部屋のドアをノックもせずに開けた。 「どうしたっ!」 星斗は唖然とした。 明生がベッドの上で布団を頭から被ってうずくまっているからだ。 「何・・・やってんの?」 明生は被っている布団から、少しだけ顔を見せると、「ほっといてくれ」とだけ口にした。 「いや、今、お前の悲鳴が聞こえたんだけど・・・?」 「空耳だ」 「・・・・・」 あんな叫び声を上げておいて、そんな訳ないだろう・・・?と、星斗は思う。 と、またその瞬間、青白い閃光がパッと明生の部屋のカーテンの隙間から輝くと、ゴオオォォォーーーンっ!と雷鳴が轟く。 「うわわわぁぁぁぁぁぁーーーーーーっっっ!!」 と、明生が蹲って悲鳴を上げた。 「え・・・???」 星斗は呆気にとられた。 ひょっとして・・・? 「・・・ひょっとして、雷が怖いのか?」 「・・・・・」 「なあ?」 「うるせぇな! Domのあるあるだろう!」 「!? そうなのか?!」 星斗は全く知り得ない情報だったので、素直に驚いた。 明生は頭から被った布団から、また少しだけ顔を出すと、 「こんな大事なことをパートナーから教えられてないのかよ?」 と、聞いてきた。 「え、うん・・・まあ・・・。えっ、Domって、雷が怖いの?!」 「ああ」 「なんで?」 「知らねえよっ。DNAの問題だよっ! Domに生まれて来たら、みんな雷が怖いの!! Domの唯一の弱点なの!」 そう言うと、明生はまた布団を頭から被った。 星斗はとても信じられなかった。 Domが雷を怖がる・・・? 確かに雷は危険なものだけど、でもだからって、あの支配する側でいるDomが雷を怖がる・・・??? 眞門で想像してみた。 誰よりも負けず嫌いで、DomのくせにDomが苦手とするスカイダイビングも平気でやってのける眞門が雷を怖がる・・・???なんて全く想像ができない。 ・・・そうだ、それって、人によるんじゃないか? Subの俺がSubが好きだと言われているスカイダイビングや絶叫マシーンが苦手なように、明生だけが異常に雷が苦手なだけなんじゃないのか? それを言うのが恥ずかしくて、Domの性質のせいにしただけじゃないのか? そう考える方が、星斗の中では大いに納得できる答えだった。 と、また、青白い閃光がパッと輝き、雷の轟音が空から響き渡る。 「ヒャァンンンーーーっ!」と、いつもカッコ良いはずの明生からは想像もできないようなか弱い女子のような悲鳴があがった。 「ププっ・・・」と、星斗は思わず笑いが込み上げてしまった。 いつもはヒーローのようなかっこいい弟なのに・・・。 雷を異常に怖がる姿に同情はするが、そのギャップにはどうしても笑いが込み上げる。 「お前、イヤホンは?」 「え?」 「ヘッドホンとか持ってないの? イヤホンして音楽を大音量でガンガンに流しておけば雷の音は聞こえないんじゃない? 雷の地響きみたいなのは体感しちゃうかもしれないけど」 「そっか・・・」 「持ってないんなら、俺の貸そうか?」 「いや、机の上にない?」 星斗は明生の学習机の上を探してやる。 すぐにイヤホンを見つけると、一緒に明生のスマホも渡してやった。 「はい」 「ありがとう」 「何かあったら、呼べよ。俺はSubのせいか雷は言うほど怖くないから」 星斗はそう言い残すと、そっと部屋を出た。 久しぶりに兄らしいかったのでは・・・? そう思えると、星斗の胸は大きな高鳴りを覚えた。 そっか、明生にも弱点があるのか・・・。 いつも、あんなに強気なのに。 ・・・そう言えば、眞門さんもこの前の夜におかしなこと言ってたよな。 『父親みたいなDomだけには絶対になりたくなかった・・・』 星斗は眞門が前回の夜に洩らした言葉をふと思い出した。 あの時の眞門さん、すごく悲しそうだった。 俺、あの時、自分の欲望なんかに流されないで、ちゃんと話を聞いてあげれば良かった・・・。 当然、眞門さんだって人間だから、何かしら悩みを抱えながら生きているんだよ。 Domだからって、なんでも強いばっかりの生き物じゃないんだ。 Domって生き物は、本当は弱い部分を抱えながらも強者を振る舞って生きているだけなのかもしれない。 それが性質だから。 じゃあ、俺は? Subだからって、俺はいつまでも甘えているだけの存在で良いのか・・・? 前回の夜、俺はあれで良かったのか・・・? ただ、好きに抱かれていただけで。 役に立たないかもしれないけど、話を聞けば、役に立てることがあったかもしれない。 俺は眞門さんに甘えてるだけのSubでこのまま終わりたくない。 星斗の中でようやく答えが見つかった。 ・・・俺、眞門さんに今度会ったら、この首輪を外してもらう。 で、きちんと自分の想いを伝えたい。 俺は眞門さんと本当のパートナーになりたいって。 多分・・・結果は目に見えてる。 俺、デキが悪いSubだから。 もう、それきりで眞門さんと会えなくなると思う。 でも、それでも、俺はきちんと気持ちを伝えたいっ! 出来ることなら、眞門さんから新しい首輪をもらいたいっ! 自分の想いに気づいてしまった以上、もうこの首輪はつけていたくない。 もらえなかった時は・・・次に進む時。 俺を待ってくれているDomに会う時がきた。 そう思えば良いんだ。 星斗はようやく、この首輪を外せる時が来た。 そんなふうに感じられた。

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