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眞門の週末
土曜日の夜をようやく迎えた眞門は今日の仕事を全て終えると、自宅に直帰した。
そして、ソファに倒れ込んだ。
眞門は身も心も心底疲れ切っていた。
何かにつけてDomの荒ぶった感情を呼び起こさないよう、かなりの神経をすり減らしながら、ひとつひとつ丁寧に仕事に向き合った。
この一週間、何のトラブルも起こすことなく、仕事を無事に遂行出来たことにホッと胸をなで下ろす。
すると、なぜか寂しさが急に胸に押し寄せてきた。
部屋が広すぎるせいなのか、シーンと静まり返ったリビングの中でやけに孤独を感じる。
『お疲れ様です』
待ち合わせ場所に迎えに行って、車に乗り込んでくると、必ずそう声を掛けてくれてたよな。
その言葉と共に、車に乗り込んできた時の星斗の嬉しそうな笑顔を思い出す。
眞門は思わず右側を見た。
先週は星斗クンの頭が右肩にもたれかかっていた・・・。
「・・・・・」
あれ・・・?
一週間前のことを懐かしんでしまうくらい、俺の人生って何もなかったか・・・?
みんなから羨ましがられる、何不自由ない暮らしをしているんだぞ。
やりたいことなら、なんでもできるぐらいの金は持ってるぞ。
「・・・・・」
あれ・・・?
俺のやりたいことってなんだ・・・?
週末はいつも何をしてたんだっけ・・・?
・・・そうだ。
やることがないから、土曜は仕事をすることにしたんだ。
で、日曜はジムに行く。
その後は気が向けば、ワンナイトの相手を探せるお店に行って、気が向かなければ、家に篭もって海外ドラマなんか見てたんだ。
「・・・・・」
あれ・・・?
じゃあ、何のために、この一週間、俺はこんな神経をすり減らしながら仕事を頑張ってたんだ・・・?
俺は一体何が欲しくて、何のためにこんな頑張ってたんだ・・・?
「・・・・・」
なぜか、この前の激しく求めた時の淫らな星斗の夜の顔が思い浮かんだ。
「・・・あー、もうっ、それはいいんだって!!」
眞門は脳裏に浮かんだ星斗の顔をどこかに追いやりたくて、その顔を吹き飛ばすほどの大声でわざと口に出した。
眞門は久しぶりに一人で過ごすことになった週末の夜をどうやって過ごすかを考えた。
そう言えば、あの海外ドラマの新しいシーズンが始まっていたはずだ。
以前から楽しみで視聴していた海外ドラマのことを思いだした眞門は、夜通しで見ることに決めた。
テレビをつけ、動画配信のチャンネルに合わせると、お気に入りだった犯罪ミステリーの海外ドラマの観賞を始めた。
お、今、人気の歌姫がゲスト出演の回か・・・って、あれ、もう殺されたじゃん・・・。
仕方ないか、お芝居はあんまり上手くないもんな。歌はあんな上手なのにな。
眞門は久しぶりに見るお気に入りの海外ドラマに心を躍らせているはずだった。
・・・そう言えば、星斗クンって、歌は上手いのかな?
そうだ、今度、カラオケに一緒に行って、歌唱力の点数を競うっていう勝負はどうだろう?
勿論、点数が低い方が負けだ。
まあ、歌唱力でも俺が断然勝つと思うけどな~。
「・・・・・」
だから、星斗クンのことはもういいんだって。
今は大好きなドラマを見てんだろうっ!
眞門は自分にそう言い聞かせて、再びドラマを視聴することに集中する。
いや、だから、このプロバスケ選手が最初から犯人だと俺は思ってたんだよ・・・。
・・・そうだ、バスケならフリースロー対決ってありだよな。
どこか、この辺でバスケットゴールを借りれるところないかな?
どうせなら、テラスにバスケットゴールを買うか。
広いのに、これといって活用もできてないしなー。
それなら、家に星斗クンをいつ呼んでも勝負が出来るもんなー。
まあ、どうせ、スポーツなら俺が勝つって言って、勝負すること自体をイヤがるだろうけど・・・。
「・・・・・」
眞門はテレビを消した。
何でドラマに全然集中できないんだ!
なんで、星斗クンとのことばかり考えるんだ!
星斗クンとはもう会わないって決めただろうっ!!
星斗クンとの罰ゲーム付きの勝負事をいくら考えたって、もう二度と出来ないんだ!!
「・・・・・」
そう自分に言い聞かすと、なぜか眞門の胸には虚しさだけが永遠と広がっていく。
その終わりを知らない虚しさは眞門の全てを覆いつくしていった。
そして、気がつくと、眞門は寂しくなって、死にたいとまで思ってしまった。
「俺はなんだろう・・・」
眞門は自分が生まれてきた意味や生きる目標、生きていく活力が何にも見えなくなってしまった。
「俺は明日をどうやって生きて行けば良かったんだっけ・・・」と、ポツリと寂しく呟いた。
と、静寂を破るように、眞門のスマホが着信を知らせた。
相手は愛美だった。
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