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眞門の週末②

「はい」と、電話に応対する眞門。 『久しぶり? 元気にしてる?』と、愛美。 「まあ」 『本当に? 全然連絡が来ないってママが心配してるよ。そういえば、私のところにも連絡がないから、さすがに心配になっちゃって』 「すまん、色々と忙しくしてて」 ここ最近の休日は星斗クンとほとんど一緒に居たからな。 他の誰かを思う時間なんてなかった。 「後で母さんに連絡を入れておくよ」と、眞門は続けた。 『ねえ、明日の夜って空いてる? 久しぶりに食事しない? ママも一緒に』 「・・・・・」 眞門は返答に困った。 愛美の夫、カズキが同伴なら絶対に行きたくないと思ったからだ。 『カズキさん、この週末は仕事で家に居ないの。だから、久しぶりに家族三人で会わない? お兄ちゃんにどうしても報告したいこともあるし』 それならば、と、考えを改める眞門。 「三人って、愛美のお父さんは? 誘わないのか?」 『釣り仲間と船釣りに行くんだって。ママは船酔いが酷いから留守番を選んだらしいわ。それで、私もママも家で独りぼっちのお留守番だから、それなら、お兄ちゃんも誘って、久しぶりに三人で食事に行かない?って、私が提案したの』 「・・・そうか。分かった。じゃあ、いつもの行きつけのレストランの個室でも予約するか? それなら久しぶりにゆっくり話も・・・でき・・・る・・・」 眞門はそこまで口にした時、カズキに言われたある言葉を思い出した。 "愛美はあういうお店が好きじゃないだよな~" チッ。と、苛ついたように心の中で舌打ちした眞門。 「やっぱり、行く店はふたりに任せていいか?」と、言い直す眞門。 『・・・へ?』 愛美は少し驚いた様子だった。 いつもなら、眞門が強引に食事する場所を決めるからだ。 『いいの? 私たちが決めると普通の・・・その、所謂、庶民的なお店を選んじゃうけど・・・?』 「ああ、母さんと愛美が行きたい店で構わないよ」 『分かった。じゃあ、ママと相談して決めておくね。また、追って連絡する』と、愛美は電話を切った。 眞門は電話を切ると、「良かった・・・」と、思わず呟いた。 これで、明日の心配をしなくて済んだ。 明日をどうやって過ごそうか、なんて考えなくて済む。 星斗クンのことも考えなくて済むだろう。 一人でいる寂しさも少しはまぎれてくれる。 眞門はそう安堵した。

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