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神の家
俺の寝室には一枚の絵画が飾られてある。
暗雲漂う空に向かってレンガを積み上げて出来た高い塔が、落雷によって、粉々に崩壊していく―。
一見すると、とても不気味な絵だ。
この不気味な油彩画を描いた画家は、俺の血の繋がらない妹の愛美だ。
この絵は、愛美がマルセイユタロットと呼ばれるタロットカードの絵札にある【神の家】をモチーフにして描いた。
"その人物は神になりたいと願った。
そして、少しでも神が住む天に近づこうと、その欲望を積み上げるかのようにレンガを上へ上へと積み上げていった。
それは、いつしか高い塔のように作られていった。
人々はそれを『神の家』と呼んだ。
しかし、その行為は神の逆鱗に触れた。
人間が神に近づくなどあってはならないのだ。
怒った神はその塔に目がけて雷を落とした。
その落雷のせいで、高く積み上げられたレンガの塔は、一瞬にして、粉々に崩壊していった―"
愛美はそんな様をこの絵に込めて描いた。
「お兄ちゃんは雷がすっごく苦手でしょ?
でもね、この絵の雷は、実は神様からのプレゼントなのよ。
雷が本来の自分を取り戻すきっかけをくれるの。
結局、人はどうやったって神様にはなれなのよ。
お兄ちゃんもいくら完璧でいたいと思っても完璧ではいられないのよ。
いい、雷は教えてくれているのよ、お兄ちゃんは完璧でなくて良い、そのままで良いんだって。
この絵を見る度にそれを思い出してもらえたら、雷も悪いもんじゃないって少しは思えない?」
そう言って、愛美から贈られた。
雷雨で恐怖に怯える中、星斗を失いたくない一心で、俺は星斗の自宅に向かって車を走らせた。
しかし、たどり着いた時にはすでに遅かった。
俺がつけた首輪が星斗からは外されていた。
その姿を見た瞬間、俺の中に高くそびえ建っていた【神の家】は全て崩壊した。
俺は一体、誰のための完璧なDomを目指そうとしていたのか?
俺はどこをどう間違えて、またもや、愛しい人をみすみす逃してしまう愚かなDomになってしまったのか?
それらの答えに全て気づいた時には全てを失っていたことに気がついた。
星斗を失って気が狂いそうになる中、何度も打ち付けてくる落雷に何度もこう言われてる気がした。
『お前はお前のやりたいように最初からすれば良かったのだ。所詮、お前は生まれた時から無様なDomなのだから』
俺は初めて雷 に感謝した。
あの夜の雷はまさしく天からの罰であり贈り物だったのだ。
俺の中の【神の家】が全て崩壊した後、その更地となった地に現れたものは、またもや俺の新たな欲望だった。
もうどうでも良い。
誰にどう罵られても構わない。
俺のことを無様なDomだと、好きなだけ後ろ指を指して笑えば良い。
俺は、俺のやり方で手に入れたいものは手に入れる―。
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