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無様なDom④
「男のSubだけ感じてしまう、ある特定の体の部位があるんだけど、なぜか、Subの男はここを責められると気持ち良いと感じてしまうんだ。DomやNormalには通用しない、Subだけ味わえる部位なんだけど、星斗はどうかな・・・?」
そう言うと、眞門の泡のついた中指は会陰をなぞるように下に向かって落ちて行く。
「!」
星斗はピクっと体を反応させた。
その反応を見逃さなかった眞門は、星斗の会陰部を右の中指で何度か優しく上下させ撫でてやった。
星斗はその度にピクっ、ピクッ、と、感じるように体を反応させた。
「そうだね、ここは男の子にとったらすごく気持ち良い場所だもんね。前立腺を外側からマッサージされているよう感覚になるからね」
・・・あ、やばい・・・なんだか、熱が全身に帯びて行く・・・。
ここ、もっと触って欲しい・・・。
やばい、飲まれる・・・欲望に飲まれる・・・。
俺の中のSubが目覚める。
もっと・・・中も触って欲しい・・・。
星斗が性の欲望に飲まれそうになった瞬間、フッと眞門の右手が会陰部から離れた。
「ここじゃないよ、星斗。ここはNormalの男でも気持ち良いからね。Subの男だけが感じてしまうのはこっちだよ」
眞門の右手は星斗の陰嚢を優しく手の中に包んだ。
「!」
「どうだい、気持ち良いだろう?」
「・・・イヤだ・・・そこは、イヤだ、眞門さん・・・っ」
「知未さん、だろ?」
「!」
お仕置きなのか、眞門の握る右手の力が少しだけ強くなった。
・・・痛いっ!
星斗の腹の底に軽い鈍痛が走った。
「・・・知未さん、そこは触らないで・・・」
星斗は恐怖心に負け、そう言い直した。
「なんで? 本当は気持ち良いはずだよ。星斗はSubなんだから」
眞門は手の中で星斗の陰嚢を優しく揉み始めた。
気持ち良いはずだ、と言われても、正直よく分からない。
そんなことよりも、今の眞門さんに自分の身を全て任せなきゃいけないことがとにかく怖い。
男の最たる急所を握られたまま、少しでも眞門さんを怒らせたら、とんでもない目に遭う!
「良い緊張感だろう? Subがとても大好物なやつだ。
相手に全てを委ねることによってどこまで快感を得られるか。
俺も緊張するよ。
下手したら、潰しちゃって、星斗を男でも女でもない人間にしちゃうかもしれないからね。
まあ、俺は星斗がSubなら他のことなんてどうでも良いけどね・・・」
眞門さんって、こんな酷いことを平気で口に出来る人だったんだ!
見損なった!
俺はこんな酷い人を好きになった覚えはないっ!!
陰嚢を優しく揉んでいたはずの眞門の右手は、何やら動きが変わると、今度は星斗の睾丸をひとつだけ手のひらの中に優しく包み、ゆっくりと下に引っ張った。
「!」
「どうしたの? 痛かった?」
「・・・・・」
「そんなはずないだろう? 気持ち良かったんだろう? Subは軽い痛みは気持ち良いって感じてしまう感覚がDNAにきちんと組み込まれているんだから」
・・・嘘だ。
今のが気持ち良いなんて・・・嘘だ。
普通の男なら、あの場所をあんなことをされて気持ち良いなんて感じるはずがないっ!
・・・痛いと気持ち良いが同時にきたのが気持ち良いなんて・・・そんなわけない!
「!」
戸惑う星斗の顔を見逃さなかった眞門は、今度はもう一方の星斗の睾丸を軽く下に引っ張った。
・・・嘘だ。
なんだ、これ・・・。
たまんない・・・。
快感と不快さが同時にやってきて・・・気持ち良いだけじゃ得られない何かがある。
少しの不快さが混じるだけで、Subの心が呼び起こされる。
眞門はマッサージするように、星斗の陰嚢を右手の中で優しく揉んでやる。
「これは、男のSubしか味わえない醍醐味だよ。どうだい、男のSubに生まれてきて良かっただろう?」
ヤバイ・・・もっと・・・もっと欲しい。
あの快感と不快さを同時にもっと与えて欲しい。
苦しくなるのに気持ち良い。
気持ち良い中に不快さが走り抜けていく。
今度は・・・少し強めが欲しい・・・。
Subの欲求に飲まれそうになった星斗は眞門を見上げるようにして見つめた。
「ん?」
眞門が優しく微笑む。
星斗は「もう一度・・・」、そんな懇願する瞳を浮かべてしまう。
「やっぱり、星斗も気持ち良かったんだね」
「・・・・・」
しかし、星斗はそう見つめただけで、それ以上の要求は口にしようとはしなかった。
星斗の中でSubの性に流されまいと必死で戦う自分がまだいるからだ。
分かっているのか?
俺がSubの性に屈して自ら要求したら、あの女性を、眞門さんの奥さんになる女性を悲しませることになるんだぞ。
いくら、ダイナミクスの性の世界は寛容だからって、人を傷つけちゃいけない。
悲しむ人を作っちゃいけない。
俺の大好きだった眞門さんにそんなことさせちゃいけない。
俺だって、眞門さんのことがまだ大好きだ。
そんなすぐに忘れられるわけがない。
出来ればもっと・・・永遠に躾けられていたい。
でも、それが出来なくなったから、俺はさよならするしかなかったんだろう?
なんとか踏ん張らなきゃ、Subの性にだけは絶対に飲みこまれるな!
星斗が見つめたまま、何も訴えてこない。
眞門は何かを感じ取ったのか、「そうか、今夜の星斗を無理やり俺のSubとして服従させるのは難しそうだね」と、まだ灰色の瞳のままで残念そう口にした。
眞門の右手が星斗の体からそっと離れた。
「なら、こうしよう」と、灰色の瞳のままで眞門は口にする。
「俺たちの大好きな勝負で決着をつけよう。
星斗に今から暗示をかけるよ。
暗示をかけられた瞬間から、星斗が今夜話せる言葉はある言葉だけになる。
俺がその言葉を言わせたら、俺の勝ち。
いいね?
星斗が負けたら、罰ゲームのお仕置きを目一杯に受けてもらうからね」
「・・・・・」
星斗は眞門を睨んだ。
人の心も考えず、俺に拒否権も与えず、勝手に勝負で決着させようなんて!
なんだ、それ!!
そう思うと、腹が立って仕方なかった。
「じゃあ、始めるよ」
そう言うと、眞門の灰色に染まっている瞳が一瞬だけ輝くように光った。
星斗の脳裏に刷り込まれるように、ある言葉が浮かび上がって来た。
「!」
・・・そんな!?
「今、頭の中で浮かんだ言葉以外は星斗はもう口に出来なくなったからね。
いいかい、今夜、星斗が使える言葉はこの一言だけ。
『知未さんが欲しい』だ」
「・・・・・」
「さあ、星斗はいつまで我慢できるかな?」
眞門はそう言うと、既に勝ち誇ったように微笑んだ。
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