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真実
星斗が自分の身になにが起こったのか?
それを思い出そうとしているところに、「ちょっと、どこにいるの!」と、愛美の荒げた声が聞こえてきた。
眞門の姿を早く見て安心したい愛美が、眞門を探しに、螺旋階段を下りて、寝室までやって来たようだ。
「・・・ねえ、どこにいるのっ! ・・・この部屋?」
その声と共に愛美が寝室の扉を開けた。
「!」
ベッドの上で全裸で抱き合う眞門と星斗の姿が突然、目に飛び込んできた愛美は「キャアーっ!」と、驚いた声を思わず上げると、寝室の扉をすぐに閉めてしまった。
「!」
星斗は愛美の顔を見て、昨晩に自分に何があったのか、その記憶を全て思い出してしまった。
「・・・知未さん、どうしよう」
「ん?」
「どうしたら良い?」
「え?」
「俺、あの人のことを傷つけないって誓ったのに・・・こんなに早くやらかした・・・」
「星斗・・・」
星斗がこんなになってまでも、事の真相を誤解していることに、眞門は申し訳なくて心が痛んだ。
「俺、どうしよう。妊娠してる大切な体なのに・・・俺、どうしよう・・・」
「星斗・・・あのさ・・・」
眞門が誤解を解こうとした矢先、「ちょっと、お兄ちゃん! どういうことよ!」と、寝室の外から、愛美の尖った声が聞こえてきた。
「全く、こんな時に、お兄ちゃんは一体何してんのよ!!」と、愛美は更に続けた。
・・・え?
愛美の「お兄ちゃん」と言う言葉を聞いて、星斗は思考の全ての機能が停止したような感覚に陥った。
何も考えられなくなった星斗は、
「お兄ちゃん・・・?」
そう言って、眞門の顔を思わず見つめた。
眞門は今世紀最大級の申し訳ないと言うような詫びる顔を見せると、
「星斗・・・彼女は俺の妹だ」
と、とてもバツが悪そうに真実を口にした。
・・・へ?
星斗は自分の中にある全ての機能が停止してして、時が止まってしまったんじゃないか。
今度はそんな感覚に陥った。
「・・・ちょっと、お兄ちゃん! 少しで良いから説明して!」
愛美の憤った声が再び聞こえてきた。
「待ってくれ、愛美」
眞門はそう返事すると、星斗に向かって、
「後でゆっくり、きちんと話するから」
と、言い、ベッドの脇にあった、スウェットの上下を素早く着ると、寝室のドアを開けた。
眞門は寝室のドアを開けたままで、廊下にいる愛美に向かって、
「愛美。
彼が今、俺が真剣に交際をさせてもらっている渋谷星斗クン」
と、ベッドで裸で寝そべる星斗を愛美に紹介した。
「星斗。彼女は俺の妹の愛美」
と、今度は星斗に向かって、愛美を紹介した。
「・・・・・」
「・・・・・」
星斗と愛美は同時に同じことを思った。
この状況でその紹介いる・・・?
てか、その紹介、今、必要・・・?
それを言われた俺(私)はどうすれば良いの・・・?
全く空気が読めない行動をする眞門に、星斗と愛美は同じような困惑を浮かべた表情で固まってしまった。
「・・・どうも・・・すみません・・・こんな格好で」
いつまでもこのままではいられない。
そう思った星斗が先に言葉を口にした。
「いえ・・・私こそ・・・すみません・・・急に押しかけてきて・・・」
愛美もそれに合わすように返答した。
「・・・はじめまして」
「・・・はじめまして。これからもよろしくお願いします」
「こちらこそお願いします」
そこまで言うと、星斗と愛美は、軽く会釈し合った。
「それじゃあ・・・」
星斗に向かってそう言って、愛美が頭をまた軽く下げると、今度は眞門の腕を強引に引っ張って、星斗が見えない場所、螺旋階段の付近まで眞門を連れて行った。
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