111 / 311

真実②

愛美はヒソヒソ声で、「ちょっと、彼はいくつなの?」と、眞門に問いかけてきた。 「へ?」 「年齢!」 「20歳だけど」 「成人してるのね? ちゃんと成人してるのね?」 「ああ」 「良かった・・・」 何を安心したのか分からないが、愛美はホッと胸をなで下ろした様子だった。 「未成年かと思った・・・」 愛美の頭の中ではとんでもない妄想が繰り広げられていたようだ。 「俺がそんな法に触れるようなバカな真似するわけないだろう?」 「だって、交際してる相手を紹介してくれたの今が初めてだよ。 しかも、さっきまで裸で抱き合ってるし。 それって、無断欠勤してしまうぐらい、彼と何かあったってことでしょう? 誘拐でもして無理やりなにかしてるのかと思った・・・」 俺は妹から、いつも、どんなふうに見られているんだろう・・・? そう思うと、眞門は悲しくなった。 「お兄ちゃんには悪いけど、ママとふたりでずっと心配してたのよ。お兄ちゃん、人には言えないような趣味があるのかな・・・?って」 「へ?」 「だって、お兄ちゃんみたいな人が付き合えないワケないじゃない。なのに、どうして、特定の相手を作らないんだろうって。ふたりで心配してたの」 「・・・・・」 「ダイナミクスの性別を持ってるから、私たちには理解できない何かがあるんだろうってことにしておいたけどさ・・・まさか・・・警察に捕まるような趣味があったのかと思って・・・イヤな汗いっぱいかいたわよ・・・良かったぁー」 愛美が何をそんなに本気で心配していたのか? 俺はそんなヤバい奴に見えていたのか? そう思うと、眞門はやはり悲しかった。 「ちょっと、妊婦に変な心配させないでよっ、胎教にわるいでしょうがっ」 「すまん・・・」 なんで、俺が怒られるんだ・・・?  愛美が勝手に勘違いしただけなのに・・・。 やはり、眞門は納得がいかなかった。 「お兄ちゃんはママだけじゃなく、私の自慢のお兄ちゃんでもあるんだからね。カズキさんにも妬かれるぐらい、いっぱいいっぱい、影で自慢してるんだからね」 愛美のその一言で、眞門は全てを悟った。 そんな気になった。 そうか。 愛美にとって、俺は自慢の兄、なのか。 やはり、兄としてしか見られてなかったのか・・・。 でも、やっとそれが嬉しいってところまで昇華出来てる。 カズキが俺にしてくる嫌がらせも、俺が星斗の弟に嫉妬しているのと同じようなものなのかもしれない。 眞門はなんだか嬉しいよなうな、でも、どこか寂しような、とても不思議な気持ちで胸が一杯になった。 そして、ようやく、愛美とは本当の兄妹になれる。 そんな気持ちにもなった。 これって、全部、あの夜に星斗と出会えたからだよな。 そう感じると、眞門は星斗に本当に申し訳ないことをしたと思い、昨夜の出来事をまた反省した。 「・・・で、一応、確認で聞いておくけど、彼と何かあって、会社を無断欠勤するぐらいの大ポカをしたってことで良いのね?」 「ああ。俺、とんでもないことをやらかした・・・星斗に許してもらえないかも・・・」 「ええ、お兄ちゃんが?!」 「ああ」 「・・・お兄ちゃんも恋愛したら、ただの普通の男なんだね・・・」 愛美はどこか感心したように口にした。 「じゃあ、いっぱい謝るしかないね。許してもらうまで謝る。誠意を見せて謝る。何があっても謝り続ける。そして、最終手段は土下座だよ。でも、土下座は一度きり。それ以上やったら、逆に誠意がないと思って嫌われる」 「分かった」 眞門があまりにも悲壮な顔で返事したので、愛美は思わず同情した。 「じゃあ、ママには私から報告しておくから。疲れてて、寝過ごしてただけみたいって。彼との話が落ち着いたら、ママに後で連絡しておいてよ」 「ああ、すまない」 「後、会社にもね。じゃあ、私は帰るから。彼には・・・状況が状況だけに、このまま帰るね。また、きちんと紹介する場を改めて作ってね」 「ああ」 「じゃあ、仲直り頑張って」 愛美は軽く微笑むと、螺旋階段を上っていた。 階段を上がっていった愛美を見送ると、眞門は寝室に戻ってきて、ベッドにいる星斗に視線を合わせた。 「先に会社に連絡させて。それから、ゆっくり話しよう」 「知未さん」 「ん?」 「玄関に置きっぱなしにしてる俺の服を持ってきてください」 「ヤダよ」 「!」 「服着たら、星斗、怒って帰るじゃん」 「!」 「怒って、帰るだろう?」 「当然じゃないですかっ!!」 星斗は突然にブチ切れて、怒りをぶちまけた。 「てか、なんですか、今のっ! 妹さんに勝手に俺を知未さんの恋人だなんて紹介しないでください! 俺達はもう何もないんですから!!」 「でも、昨夜は永遠に俺だけのSubになるって、星斗は約束したじゃん!」 「あれは言わされたんでしょ!」 「だから、きちんと話するから、会社に電話してくる間だけ、ちょっと待っててよ、ねえ」 眞門は困った顔でそう言うと、寝室のドアを閉めた。 一人残された星斗は全く怒りが消えなかった。 許せるわけないだろうっ! 俺がどんな酷い目に遭ったか、謝られたところで、許せるわけないだろうっ! 何の話し合いだ!! 俺は、知未さんの顔なんか2度と見たくないっ! こうなったら、意地でも帰ってやる! 怒りに任せた星斗は全裸のままベッドから飛び降りると、寝室を飛び出していった。

ともだちにシェアしよう!