113 / 311
告白
眞門はなぜか星斗から視線を外した。
どうやら、眞門には素直には話したくない何かがあるらしい。
眞門は伏し目がちでゆっくりと話し始めた。
「・・・あのね、その日の夕食後に出たデザートのスイカを食べ過ぎたせいか、夜にトイレに行きたくなって目が覚めたんだ。
俺の実家は二階建てなんだけど、一階の突き当たりにね、絶対に開けちゃいけないって言いつけられてた扉があったの。
両親からはその扉は絶対に開けるなって、しつこく何度も言われた。
で、トイレに行きたくなって目が覚めたその夜、二階のトイレに行ったら、電球が切れてて、仕方がないから、一階のトイレに向かったんだ。
そしたら、その開けちゃいけないって言われてた扉が少し開いててね、母親の叫び声が遠くの方から聞こえてきたんだ」
「お母さんの・・・?」
「ああ・・・悲鳴が聞こえてね・・・。
俺、言いつけを忘れて、咄嗟に母親を助けに行かなきゃって思ってさ、その扉を開けたの。
開けたら、下っていく階段があって、どうやら地下に秘密部屋があるみたいで。
で、母親を助けたい一心で急いで階段を下りていったら・・・」
眞門はそこで言葉を詰まらせた。
どうやら、その先は口にしたくないようだ。
「・・・知未さん?」
星斗は心配して、眞門の様子を見守った。
眞門は重いため息をつくと、
「・・・母親が全裸で、特殊な縄の縛り方で手足の自由を奪われて縛られた上に、天井から吊り下げられてたんだ」
と、その先の言葉を口にした。
「で、母親がこう泣き叫んでたんだ。
『やっぱり、私には無理だった・・・! ごめんなさい、あなた! もう許して! お願いした私が悪かった!』って。
母親は恐怖に顔を引きつらせて、泣き叫んでた」
「・・・あの・・・それって・・・」
「ああ、両親はPlayしてたんだと思う」
眞門はそう言うと、表情を暗くした。
星斗は同情した。
男として眞門の気持ちはすごく理解出来るからだ。
確かに、両親のそんな現場は見たくない。
しかも、母親のそんなあられも無い姿を思春期を迎え始めた小学5年生には精神的にもキツ過ぎる・・・。
「テレビで話す芸人みたいに笑い話に出来れば良かったんだけど・・・俺は出来なかった・・・。
その後すぐに両親が離婚したから、余計に恥だと思った。
それにうちの母親はNormalなんだ」
「えっ・・・」
「その時の父親の顔は今でも忘れられない。
すごく幸せそうでね・・・。
仕事柄、うちの父親はいつも穏やかな顔つきをしているんだ。
産婦人科医で女性や妊婦が相手だから。
でも・・・あの夜の父親の顔は・・・。
母親が泣き叫んで必死に助けを求めてるのに、父親は手を全く休めないで、鞭でずっと、母親を叩いてた・・・。
母親の白い肌が父親の鞭で叩かれる度にその痕が赤いミミズ腫れのように腫れていくんだ。
俺、怖くて仕方なかった・・・その時の父親が。
だって、泣き叫んで助けを求める母親を虐めて歓喜に満ちた顔してるんだ。
・・・その時に俺はもう自分がDomだって知ってたから、将来、俺もあんな化け物になるのかって思ったら・・・すごく怖くなった」
星斗は眞門がある時に口走った『父親みたいなDomにはなりたくない』、その意味が少し理解出来た気がした。
「だから、俺は王子様みたいなDomになろうとした・・・いや、なりたかった。Subを虐めるんじゃなくて、守って、癒してやれるDomだ。俺は絶対に父親みたいなDomにはならないってあの夜に誓った・・・けど、星斗には無理だった」
眞門はまた星斗に視線を合わせた。
「だって、星斗といると、星斗を虐めたくて仕方なくなるんだ。
それで、俺だけを見て欲しいって思う。俺だけのことを考えていて欲しいって思う。
朝も昼も夜も起きてる時も寝てる時も食べてる時もゲームしてる時も風呂に入ってる時もどんなときも俺のことだけを考えさせたいって思うんだ」
「・・・・・」
「星斗を支配したくてたまらなくなった。だから、星斗から逃げた。自分が怖くなって。自分をコントロール出来なくなって。
だから、星斗が愛美との仲を勘違いした時、俺が何もしなくても、星斗と別れられると思ったんだ・・・でも、それが自分の気持ちに気づくきっかけになった。
星斗を失うってことが現実になると分かると、気が狂いそうになって。
だから、きちんと説明して誤解を解いて、告白しようと星斗に会いに行ったら、星斗の首輪がもうなくなってたから、その・・・いきなり、ブチ切れた」
ともだちにシェアしよう!