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寺西からの呼び出し

星斗が寺西に相談した、その日の夜。 「大切な話があるから」 眞門は寺西にそう言われて、呼び出された。 仕事を終えた眞門は、寺西のクリニックの診療時間が終えた頃を見計らって、寺西が待つ診察室に顔を出した。 「なんだよ、大切な話って」 眞門は診察室に入るなりそう言うと、荒々しい動きで、患者用の椅子にドスンっ!と、腰を下ろした。 「お前も、なんかDomらしくなってきたな・・・」 寺西は、稀に見る眞門の横柄な態度に、感心しながらも苦笑いを浮かべた。 「そうか?」 「俺がお前を呼び出したってことは、渋谷さんのことに決まってんだろうっ。良い親友を持ったと思って、手土産の一つぐらいもって来て、感謝を見せろっ」 「それは悪かったな。で、星斗のことってなに?」 眞門は一変して、食いつくように寺西を見つめると、瞳を輝かせた。 初めて恋人が出来た男子高校生じゃないんだから・・・。 ま、こいつ、モテないもんなー。 渋谷さんに夢中になるのも当然か・・・。 そう思うと、寺西は今から助言する内容に心を痛めた。 「いいか、先に言っておくが、俺が今から医者の守秘義務を破ってまでも、アドバイスしてやるのは、お前らの相性がバッチリだと思っているからだ。お前の親友だからってわけじゃない」 「?」 「何が何でも全てを支配したい性の持ち主と相手色に染まりたいほどの依存系の性の持ち主。正に相性バッチリだ」 「いきなり、何の話だよ」 「お前らの性のタイプの話だ。お前はどんな手を使ってでも、渋谷さんの全てを支配したいって思ってんだろう? 渋谷さんをサブドロさせる寸前まで追い詰めてもな」 「・・・ああ」 「お前の気持ちはよく分かるよ。 最近は渋谷さんみたいなSubは希少種だからな。 Domの間でツンデレの一大ブームが起きてからの昨今、どのSubもツンデレキャラを演じるからな。 まあ、選ぶ権利がSubにあるのだから、よりよい主人を求めようとして、そう演じてしまうのは仕方ないことなんだが・・」 「てか、お前、前置きが長いよ。さっさと要点を言え、要点を!」 眞門の乱暴な物の言い方に、寺西は思わず、カチンっ!と頭に来る。 こいつ、マジでDom性全開になってやがるなっ! 眞門のぞんざいな言動に、寺西は少しの不快感を持った。 「渋谷さんを大切にしろよってことだ。 今は言わば猫系のSubばっかりで、渋谷さんみたいな忠犬系のSubは少ないんだから。 渋谷さんはNormal育ちで、周りにSubの知り合いがいないから、ある意味、天然記念物みたいに育ってんだ。 渋谷さんを逃したら、もう、あんなSubには出会えないぞ」 「そんなことはお前に言われなくても分かってるよ。だから、呼び出してまで、俺に何が言いたいんだよ、お前は?」 眞門のDom性全開の物の言い方に、さすがにイラっときた寺西は、いつもの冷静さを失い始める。 「だから、渋谷さんに無理やり首輪をつけんなよっ! 今度は首輪を無理やり付けたら、渋谷さんはSub drop(サブドロ)するからな!!」 寺西は湧き上がってくる怒りに負けてしまったのか、眞門ばりに乱暴に告げた。 「は!? 前は無理やり外すなで、今度は無理やりつけるな、だー!?」 しかし、Dom性全開中の眞門も負けていない。 「そうだ!」 「そんな訳いくかっ!」 「なんで?」 「いいか、星斗は今まで首輪をしてたから、Subですって、カミングアウトしてた状態でずっといたんだぞ。 それで、首輪がなくなったんだから、Domに狙われ放題になってんだ。 しかも、Normal育ちだから、その危険性が全く分かってないし。 そんな状態で野放しにしてる俺の気持ちがどんなだか分かるか?」 「分かるが、誰が悪いんだ? こんな状態を招いたのは、そもそも誰が悪いだ?」 「・・・俺・・・か?」 と、眞門はすっとぼけた物言いで、首を傾げた。 「・・・俺・・・か? だーっ!?」 眞門の反省なき態度に、寺西の怒りがついに頂点に達した。 「渋谷さんから聞いたんだよ。首輪をつけたくない理由。死のうと思ったんだって。首輪を外して死のうと思ったんだって!  お前から捨てられたと思ったから、死のうと思ったんだって。 もう一回、聞くぞ。 一体、誰のせいだ? 答えてみろ!!」 寺西はかなりの剣幕で叱りつけた。 すると、眞門のさっきまで威勢はどこへやら。 眞門は急にかしこまると、「・・・俺です。申し訳ありませんでした」と、素直に頭を下げた。 「お前な、Dom性を全開にするのも良いけど、ちゃんと反省しろっ。サブドロさせるなんて、普通なら裁判沙汰なんだからなっ!」 「はい」 「渋谷さんが簡単に許してくれたから良かったようなものの、もし、万が一のことが渋谷さんの身に起こってたら、お前、今頃ムショ入りしてたんだからな!!」 「・・・はい、申し訳ありませんでした」 そうは口にしたものの、眞門は心の中では愚痴った。 反省してるから、星斗に無理やり首輪をつけるのは我慢してるんだろう・・・。 「いいか、よく聞けよ。 渋谷さんが首輪をつけたくない理由。 お前で、またいっぱいになるのが怖いんだって。 お前にまた傷つけられるのかも。 そう思と怖いんだって。 お前のことは大好きだけど、また、お前でいっぱいになるのが怖いんだって。 だから、首輪をつけることが怖いんだって。 お前より10歳も年下の渋谷さんはきちんと自分の問題に向き合っているのに、お前と来たら、なんだ、そのDom性全開にしてるだけの横暴な態度は・・・っ! 親友として本当に情けないわっ」 寺西はかなりの嫌味を込めて眞門を諭した。 眞門はさすがにシュンとなった。 寺西から伝えられた星斗の本音が、かなり身にこたえているようだ。 眞門が反省した態度を見て気をよくした寺西は、ようやく自分が伝えたかった言葉を口にした。 「いいか、お前がしなきゃいけないことは、無理に首輪をつけることじゃなくて、渋谷さんの信頼を取り戻すことだ。何が何でも、お前をご主人様に選んでもらえるように、信頼を取り戻せ」 「・・・・・」 「Dom校育ちのお前なら、きちんと教えられてきたはずだろう。選ぶのはSubだ。Domじゃない」 「・・・・・」 「お前の気持ちは充分分かるが、無理やり自分を選ばせても、Subは必ず逃げ出すぞ。Subに自分で自分の居場所を決めさせなきゃ、絶対にいつか逃げ出す」 「・・・・・」 「渋谷さんから、『首輪をつけて欲しい』、そう言われるまで、お前はお前の想いを示し続けるしかないんだ」 「・・・でも、それってさ・・・」 「なんだよ?」 「いや・・・」 そこで言葉を止めると、診察室に入室してきたときとは打って変わって、眞門はかなり思い詰めた表情に変わっていた。

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