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・・・プロポーズ?
その日曜日の昼下がり。
凛々しいスーツ姿の眞門が、星斗の自宅のリビングにいた。
「お母様。ご挨拶が遅れて大変申し訳ありません。私、星斗さんと真剣にお付き合いをさせて頂いています、眞門知未と申します。MA-MONレンズという会社で代表取締役社長をしております」
眞門はそこまで言うと、己の名刺を星斗の母の加奈子に向けて差し出し、まずは一礼した。
「あの・・・これは一体・・・?」
加奈子は突然現れた眞門の存在に、ただ、唖然としている。
「あの、お父様は?」
眞門は星斗の父親の姿が見えないことを尋ねた。
「ああ、すみません、あの人は休日になると、決まってフラッと出て行くんです。こんな大切な席に同席してなくて、ホント申し訳ありません」
「いえ、私の突然の我がままでしたので・・・」
そこまで言うと眞門は、座っていたソファから突然立つと、今度は床で正座になって座り直した。
そして、加奈子に視線を合わせる。
「今回は大事なお話があって、お時間を作って頂きました。おとといの夜に、星斗さんにプロポーズをいたしまして、星斗さんから結婚の了承をいただきました。星斗さんを一生大切にしますので、結婚のお許しを頂けませんでしょうか」
眞門はそう言うと、加奈子に向かって深々と頭を下げた。
眞門の隣の席にずっといる星斗は、眞門と一緒になって頭を下げるどころか、ぼけ〜っとした呆けた顔を浮かべている。
知未さん、あれって・・・プロポーズ、だったんですか?
全然伝わりませんでしたよ。
てか、ダイナミクスのプロポーズって、あんな感じなんですか?
あれって、イケてるんですか?
あのプロポーズはSubのみなさんが喜ぶもんなんですか?
・・・確かに、俺は喜びましたよ。
でも、プロポーズだと思ったからじゃないんですよ。
Playだと思ったんですよ・・・。
というか、あのプロポーズの言葉って、自慢できるんですか?
もし、仮に俺にSubの友人がいたとして、
「俺、パートナーから、『合法的に監禁したい』って、プロポーズされちゃった♥」
「えー、なにそれー、すごく羨ましい~~っ!」
って、盛り上がれるんですか?!
大体、Normalのプロポーズって、もっと、どストレートな言葉に婚約指輪が必要なんですよ?
いや、もうこの際、指輪はいらないです。
ですから、もっとロマンティックで思い出に残るプロポーズをやり直してもらえませんか?
ダイナミクス性でもNormal性でも誰にでも自慢できるような、プロポーズをもう一度、お願い出来ませんか。
星斗が心の中でそんなことをブツブツ呟き、また、いつものように上の空でいると、
「星斗、あんた、ゲイだったの?!」
と、驚いたように加奈子が問いかけてきた。
「・・・へ?」
星斗はその問いかけで我に返る。
加奈子は眞門にソファに戻るように促すと、
「というか、同性同士って結婚できましたっけ?」
と、真顔で眞門に問いかけた。
「だから、あれだけアップデートしとけって言っただろう!」
今度は加奈子の隣の席を陣取っていた明生がかなりの乱暴な口調で叫んだ。
「いいか、俺は勿論、反対だ。あんた、うちの兄貴をあれだけ泣かしておいて、本気で結婚できるとでも思ってんのか、あああんーーーーっっっっ!!!」
明生はDom性が全開になっているのか、眞門に敵意むき出しでガンを飛ばしまくる。
「ちょっとっ! 高校生のくせに、大人の話し合いに口を出してこないの!」
加奈子が当然のように明生を叱りつけた。
「すみません、どうも今、反抗期みたいでして・・・」
と、眞門に平謝りする加奈子。
そんな加奈子を尻目に、
「いつでも殺 ってやるぞ、コラっ!」
と、相当、眞門のことが気に入らないのか、明生はまだ言いがかりをつける。
「もう、ちょっと、いい加減にしなさいっ! 大人しく出来ないんなら、もう部屋に戻りなさい!」
加奈子が明生を窘めると、明生は眞門を睨み付けたまま、とりあえず引き下がった。
「あの・・・それで・・・一体、どういうことなんでしょうか?」
加奈子は眞門にそうを話しかけ、本題に戻した。
「はい、私はDom性でして、星斗さんはSub性なので、わが国ではダイナミクスの性別を持った者同士の結婚は・・・」
「え、あんた、本当にSubだったの!?」
加奈子は今、知ったとばかりに驚き、星斗に確認を求めた。
「う、うん・・・」
「え、じゃあ、あの首輪って・・・働きたくないから、とかじゃなくて、Subだからしてたの?」
「うん・・・」
「じゃあ、どうして外しちゃってるのよ?」
「それは・・・」
星斗は、一連の出来事を一から説明すると長くなるし、その複雑さを加奈子に分かってもらえるわけがないとハナから諦め、口籠った。
すると、
「このおっさんが浮気したから、俺が兄貴の首輪を外してやったんだよ。なあ?」
と、明生がまた余計な口を出してくる。
「え、本当なの、それ?」
と、当り前に驚く加奈子。
「いえ、お母様。それは色んな誤解がありまして・・・なあ?」
と、すぐに、星斗に同意を求める眞門。
「うんっ、それはそう。誤解」
「じゃあ、首輪は? なんで、しないの?」
加奈子が星斗に問いかける。
「それは・・・」
どうも煮え切らない態度をとる星斗に、加奈子は母親として何かを感じとったようだ。
「本当に眞門さんと結婚するの?」
加奈子がとても心配した顔で尋ねてくる。
「・・・・・」
星斗は表情を曇らせた。
そんなの、分からない。
結婚なんて一度も考えたことなかったから。
知未さんのことは好きだけど・・・監禁されても良いって思ったぐらい好きだけど・・・結婚ってなると、正直分からない。
「星斗、俺がプロポーズした時はOKしてくれたよな?」
「・・・うん」
だまし討ち、でしたけどね・・・。
星斗は心の中でそう愚痴る。
「じゃあ、結婚したいのね?」
加奈子は星斗にまた確認を求める。
「・・・だから、その・・・」
だから、分からないんだって・・・!
だから、そんな責めないで!
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