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言い分
加奈子から結婚の許しをもらえなかった帰り道、眞門が運転する車の助手席には、なぜか星斗の姿があった。
「どうして、俺と一緒に出てきちゃったの? 家に居た方が良かったんじゃないの?」
ハンドルを握りながら、眞門は星斗の心配をしてやった。
「だって・・・」
星斗は申し訳なさそうにして、表情を暗くした。
「家に居たら、母ちゃんからの小言攻撃が始まるのが目に見えてますし・・・それに・・・」
星斗は眞門の顔色を伺う。
「俺に怒ってないんですか?」
「どうして?」
「結婚を認めてもらえなかったのは、多分、俺があいまいな態度を取ったのが原因ですから・・・」
星斗は恐縮した。
「俺が怒っているように見える?」
「・・・・・」
分からない。
でも、怒って当然だと思う。
俺が逆の立場なら、怒ってると思う。
「星斗の気持ちは最初から分かってるんだから。まだ、首輪も欲しいって言ってくれないのに、本気で俺と結婚してくれるなんて思ってないよ」
「!? えっ、じゃあ、どうして、母ちゃんにあんな挨拶を・・・?」
「だって、見せておきたかったから、本気だってこと」
「・・・・・」
「星斗とは中途半端な気持ちで付き合ってるわけじゃないから。星斗とは結婚を前提にしたお付き合いをしたいと思ってるから。星斗のことは本気なんだって、星斗にきちんと見せておきたかった」
「・・・・・」
それはもう充分すぎるぐらい伝わってます・・・。
けど、俺が・・・それにまだ追いついていないんです。
「星斗」
「はい」
「うちの父親と会ってみる?」
「え!?」
「星斗が会うって言うなら、父親に会ってもらう機会を作ってもらうけど・・・」
知未さん、父親との関係は多分、良くないはずだよな・・・。
トラウマを作った原因の人だから。
お母さんと交流している話は聞くけど、父親との話はほとんど聞いたことがないし。
知未さんのお父さんって、どんなお父さんなんだろう・・・?
てか、俺、こんな中途半端な気持ちで会っても良いのかな・・・。
「でも・・・母ちゃんが言ってることが正しいと思うんです。お会いしても、知未さんのお父さんが俺との結婚を許してくれるわけないと思うんです」
「どうして?」
「だって、俺が相手じゃ、どう考えたって釣り合わないですよ。絶対、もっと、綺麗で頭が良くて、どこに出しても恥ずかしくないような人を・・・」
「また、その話になるの!? 勘弁してよ・・・」
眞門は、うんざりだと言わんばかりに、星斗の言葉を遮った。
「だって・・・」
「だったら、最初から、星斗とのことなんか好きになってないだろう!」
眞門は何がそんなにイラついたのか、乱暴な言い方で口にした。
すると、その苛立ちに星斗は思わずビクッ!と怯えた様子を見せる。
「俺が、いつ、星斗に定職について欲しいって言った? 立派な肩書がついた職業についてくれなんてお願いしたことあるか?
俺が星斗に求めていることは、俺でいっぱいにして欲しい。ただ、それだけだっ。
そんなことをいつまでも心配するなら、定職なんかより早く首輪をつけてくれっ!」
と、苛立ちを吐露するように乱暴なまま、眞門は口にしてしまった。
「ごめんなさい・・・」
星斗はシュンとする。
「違うっ。今のは俺が悪い・・・言った事はすぐに忘れてくれっ」
眞門はすぐに怒りを抑えると、とても反省した表情を見せた。
なんで、お互い好きなのは分かっているのに、こんなことになるんだろう。
・・・早く首輪をつけない、俺がきっと悪いんだ・・・。
星斗は自分を責めて、しょんぼりとしてしまう。
「・・・なあ、星斗」
「はい」
「星斗は誰に幸せにしてもらいたい?」
「え?」
「俺は星斗だ」
「・・・・・」
「俺達はダイナミクス性で、決して一人では生きていけない。お互いがお互いを必要として支え合って生きて行かなければいけない生き物だ」
「・・・・・」
「だから、俺は、星斗に俺を支えるSubでいて欲しい。そう思ってる」
「・・・・・」
「だから、星斗もちゃんと考えてくれないか、星斗は誰に支えられて生きて行きたいのか」
「・・・・・」
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