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決心
「渋谷さん、本日は突然どうされました~?」
寺西の元に診察にやって来た星斗が、いつものように、寺西から優しく尋ねられる。
「・・・・・」
星斗はぼけ~っとした様子で、返答がない。
「渋谷さん~?」
「・・・あ、すみませんっ」と、寺西の呼びかけに我に返った様子を見せると、「頭の中でグルグルと考えてて、上の空でいました」と、星斗は苦笑いを浮かべた。
「大丈夫ですか?」
寺西は星斗の考え込んでしまう性質を心配した。
「・・・先生」
「はい」
「俺、結婚しようって決めました」
「はい!?」
「知未さんからプロポーズされたんです」
「!?」
・・・あのバカ。
俺のアドバイスが全然伝わってないじゃないか!
寺西は内心、眞門に憤るも、医者として表情には見せない。
「・・・首輪がつけられないなら、監禁したいって・・・だから、監禁されようと思います」
寺西は星斗の話をまずは聞いてやることにした。
「知未さんの想いは充分伝わりました。知未さんは本当に俺のことを愛してくれているんだって分かりました」
「・・・・・」
「知未さんに言われたんです。星斗に支えて欲しいって。あの、知未さんが俺に支えて欲しいだなんて・・・。だから、俺、知未さんの期待に応えたいと思います。なので、俺、結婚することに決めました」
そう話す星斗の表情を見て、寺西はある言葉を問いかけたくなった。
『だったら、どうしてそんな悲しそうなんですか?』
だが、寺西は医者の立場として、その言葉は抑え込む。
「渋谷さん」
「はい」
「じゃあ、どうして、今日は私のところにいらっしゃったんですか?」
「えっ?」
「その話を私に話しに来てくれたんですか?」
「・・・・・」
「渋谷さんが決めたことなら、私に報告はいりませんよ」
「・・・・・」
「本当は私に聞いてほしいことがあったんじゃないんですか?」
その言葉で、星斗の瞳がゆっくりと涙が滲んでいく。
「・・・俺、本当はどうして良いか分かんないです・・・知未さんのことが好きだし、期待に応えたいし、嫌われたくもない。けど、無理なんです・・・やっぱり、結婚も首輪も・・・好きなのに・・・どうしてだか、イヤなんです・・・期待に応えたいって思うけど・・・心がついていかない・・・無理なんです・・・っ」
涙が頬を流れると共に星斗は自分の正直な思いも一緒に表に出した。
「渋谷さん、それをどうして眞門に伝えないんですか? 私は伝える様に前回、言いましたよね?」
「無理です」
星斗は首を横に振った。
「どうして?」
「だって、怒られる・・・」
「大丈夫。眞門は怒りませんよ」
星斗はまた首を横に振る。
「どうして?」
「だって、俺、あれからも、いっぱい、知未さんのことを怒らせてるんです。知未さんに言われたこと、俺が全然聞かないから。聞き分けの悪い、出来損ないです。だから、何度も怒らせてるんです。もう、知未さんのことは怒らせたくない・・・だって、知未さんを本気で怒らせたら怖いから・・・」
「・・・・・」
寺西はその言葉に心を痛めた。
見えていなかっただけで、Sub drop した後遺症にずっと襲われていたのか。
危惧していた事が現実になった。
Sub dropしておいて、何もないわけがない。
そうは思っていたが、このふたりには、何事もなく進んで欲しい。
そう祈っていたのに・・・。
「俺は知未さんのSub失格です。なのに、知未さんは・・・お仕置きどころか、それでも、好きだって言ってくれて・・・だから、俺はその期待にどうしても応えたい・・・けど・・・けど・・・」
星斗は最後にそう洩らすと、そのまま流した涙を止められずに後は泣き崩れた。
寺西は星斗に同情を寄せると、「大丈夫ですか?」と、優しく背中を摩ってやった。
寺西は星斗の背中を優しく摩るだけで、あえて、何も言葉をかけてやらなかった。
星斗の背を摩りながら、寺西は胸の中でぼやいた。
だから、忠告してやったのに・・・。
どうして、渋谷さんをこんな追い詰めるような愛し方しかしないんだ、あいつは・・・っ。
渋谷さんは苦しんでいる。
Sub dropさせた相手をもう一度、信じようと苦しんでいる。
どうして、あいつはそれが分からないんだ。
何やってんだ、あいつは・・・っ。
寺西は、どうしようもできない状況に陥ってしまったふたりに心を痛めた。
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