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お前には分からない
その日の夜。
寺西は診療時間を終えると、案の定、眞門をまた呼び出した。
眞門は仕事帰りに寺西が待つ診察室へと立ち寄った。
「なんだよ?」
「決まってるだろう。お前を呼び出す時は渋谷さんのことだ」
眞門は、また説教でも始まるのか、そんな不服そうな顔を浮かべ、患者用の椅子に腰を下ろした。
「今日、渋谷さんが来たんだ。診察の予約があったわけでもないのに、突然」
「それで?」
「お前、プロポーズしたんだって?」
「ああ」
「なんで、そんなバカなことしたんだ!」
「別に本気ってわけじゃないし・・・俺の気持ちをちゃんと見せたかっただけ・・・」
「それで渋谷さんを追い込んでもか?」
言い訳に走ろうとする眞門の言葉を寺西は遮った。
「渋谷さん、泣いたんだ、ここで。結婚はしたくない。けど、お前に嫌われたくないから結婚するって」
「・・・・・」
「お前のことは愛している。それは確かだ。だが、Sub dropした心がお前を拒否してんだ。Sub dropの後遺症だ。それと闘ってんだよ。なのに、お前は・・・」
寺西は呆れた顔を浮かべ、
「何か言うことは?」
と、説教する教師のように問いかける。
「ない」
「!」
寺西は呆れて物が言えない。
そんな顔になった。
「お前、分かっているのか? そんな追い込むような真似で渋谷さんを手に入れても、渋谷さんは逃げ出すか、また、Sub dropしてしまうかもしれないんだぞ!?」
「ああ」
「お前、そんなことして・・・」
「お前の言いたいことは前に話を聞いた時から分かってるよ!」
今度は眞門が声を荒げて、寺西の言葉を遮った。
「それでも手に入れたいんだよ、俺は! 悪いか!」
「眞門・・・」
寺西は心底呆れた。
眞門はその顔が気に入らなかったのか、
「じゃあ、お前は俺にどうしろっていうんだ!」
と、毒ついた。
「だから、じっと待ってだな。まずは優しく見守る様に・・・」
「出来ないんだ、そんなこと!」
眞門はまたイラだったように声を荒げた。
「俺だって分かってる・・・でも、したくても、やり方が分からないんだ!!」
と、悔しそうに叫んだ。
「いいか。俺はDomなんだぞ。Domっていう生き物は可愛いって思うSubを虐めたくなるんだ。
愛してるSubを何が何でも束縛したくなるんだ。
Subを好きになれば好きになるほど、苦しめたくなる愛し方しかできないんだ!
それに喜びを感じて生きるんだよ。
Normalのお前なんかに、Domの俺の気持ちが分かるかよ!」
そこまで言うと、眞門もまた瞳にいっぱい涙を溜め込んだ。
「お前が言ってることは、俺に星斗を愛すなって言ってることと同じことなんだ。
そうしてやりたいけど無理なんだ。
出来ないんだ。
やり方が分からないんだ。
見守るだけなんて、出来ない。
待つことなんて出来ないんだよ。
好きになればなるほど、どんな強引な方法を使ってでも、手に入れたくなる。
それがDomっていう生き物なんだ」
「でも、お前たちはこのままじゃ・・・」
「分かってるよ・・・分かってるから・・・星斗を監禁するしかないって思ったんじゃないか」
「・・・・・」
「監禁して、最初からゆっくり俺をまた好きになってもらおうと思ったんだよ・・・」
「・・・・・」
寺西は何も言えなくなった。
眞門はきちんと分かっている。
自分が起こした罪のことを。
そして、その罰に苦しんでいることを。
それが分かると、寺西は何も言葉を掛けてやれなくなった。
眞門は少し落ち着きを取り戻すと、
「お前の言いたいことは分かってる」
と、改めて口にする。
「俺は星斗の運命のDomじゃない。俺は星斗を幸せにはすることはもう出来ない」
そう言い残すと、眞門は去っていった。
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