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今夜でお別れ

そして、星斗と眞門が逢瀬を必ず重なる週末が訪れた。 なぜか、この週末の待ち合わせ場所は、眞門からの指示で変更されることになった。 眞門の自宅ではなく、以前の、眞門の会社の最寄り駅で待ち合わせすることになった。 土曜日の夕暮れ。 星斗が最寄り駅で待っていると、眞門が愛車で現れた。 星斗は早速、昔のように眞門の愛車に乗り込む。 「お疲れ様です」 「お疲れ」 「あの、どこか行くんですか?」 「どうして?」 「いや、待ち合わせ場所が最寄り駅になったから・・・」 「んー、久しぶりに外でデートしようかなって思って。昔みたいに勝負でもしようか?」 「勝負、ですか?」 「うん・・・そうだ、ボウリングに行こう。星斗に負けた再戦」 眞門はそう言うと、愛車を発進させた。 ※  ※ ふたりはボウリング場へとやってきた。 ボウリングの球を持った眞門に、星斗は問いかける。 「それで、負けた罰ゲームは何にするんですか?」 「そうだな・・・」 眞門の顔に、一瞬、影が落ちた。 「今日ぐらいは純粋にゲームを楽しもうよ、ね?」 そう言って笑顔を見せると、眞門はボウリングの球を持って、レーンに向かった。 ※  ※ 勝負も罰ゲームもなく、ただ楽しくボウリングを終えたふたりは場所を移動した。 場所は眞門行きつけの高級ステーキハウスだった。 繫華街にある、二階建ての、外観がガラス張りで出来ていて、一見すると、高級ブランド店と間違えるようなオシャレな造りの店舗だった。 眞門が予約しておいたのか、ふたりは、二階にある個室へと通される。 目の前には肉などを焼くための長い鉄板があり、その上には大きな換気扇。 ふたりだけの為に、焼き手のシェフがやってきて、目の前で霜降り牛の分厚い肉を鉄板で調理する。 星斗は目を輝かせた。 ドラマなんかでよくある大物政治家が食しているような場所だ。 なんか、自分まで上流階級になった気分だ。 星斗は経験したことのない別世界を味わって、ひとり感激していた。 コース料理を堪能したふたりは、コースの最後となるデザートにいきつく。 眞門の前にはコーヒーが、星斗の前には抹茶アイスが置かれた。 そして、焼き手のシェフが頭を下げて出て行くと、個室内は二人きりとなった。 「星斗」 「はい」 「幸せ?」 「はいっ!」 星斗は抹茶アイスを口にしながら、コース料理全てのおいしさに感激して、嬉しそうに返事をした。 「じゃあ、俺と一緒に居て、幸せ?」 「・・・へ?」 星斗の食べる手が止まった。 なぜか、眞門の顔がとても悲しそうに見える。 星斗はイヤな予感がした。 「知未さん・・・?」 「俺と一緒に居て幸せか?」 「・・・どうしてそんなこと急に聞くんですか?」 「星斗は俺とずっと一緒にいたい?」 そう言うと、眞門は瞳をサーモンピンク色に輝かせた。 「Say(教えて)」 「だから、どうして、そんなこと突然聞くんですか!」 「星斗、Say(本当のこと言いなさい)」 「・・・・・」 「星斗」 「・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」 「なんで謝るの? 俺がCommandを出したんだから、星斗は素直に指示に従っただけだろう」 「俺・・・分からないんです・・・本当に何も分からなくなって・・・」 「ああ」 「知未さんの期待に応えたいけど、期待に応えられなかったら・・・怒らせてしまう・・・そう思うと、知未さんでいっぱいにすることが怖い・・・」 「そうか、ごめんな。星斗をそんなになるまで苦しめて」 そう言うと、眞門は星斗の頭を優しく何度か撫でる。 「星斗。俺達、今夜で会うのはもう止めにしよう」 「イヤだ、知未さん・・・」 眞門が何を言い出したのか、それが分かった途端、星斗は涙が溢れだし、頬を伝った。 「俺、結婚します。言われた通りに結婚して監禁されるから・・・っ、お願いだから、それ以上は言わないで・・・!」 「ダメだよ、星斗。そうじゃない。俺は星斗の運命のDomじゃなかった。だから、星斗はこれから幸せにしてくれる相手と出会うんだよ」 「でも、離れたくない・・・お願いだから・・・それ以上は言わないで・・・っ」 星斗は涙を流しながら、ただ訴える。 「ごめんな。最後まで本当にダメダメなDomで。俺、もっと簡単に幸せにしてあげられると思ってたんだけどな・・・星斗のことを最後まで苦しめて、本当にすまない」 「知未さん・・・」 「星斗は大丈夫だよ。すごく可愛いんだから。すぐに出会えるよ。星斗を幸せにしてくれるDomに」 星斗は何も言えずに、ただ悲しくて涙を流した。 眞門は、最後に星斗の頭を何度か優しく撫でると、 「星斗、本当に大好きだよ。だから、幸せになってね」 そう言うと、眞門はいきなり席を立って、部屋を飛び出していった。 部屋に一人残された星斗はただ、涙が枯れるまで泣くことしか出来なかった。

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