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今夜でお別れ②

眞門は星斗を残し個室を飛び出すと、ステーキハウスの地下駐車場にやってきて、すぐに愛車を発進させた。 行く当てはないが、星斗から少しでも遠くに離れた場所へ行きたい。 そうしなければ、星斗への想いを捨て去る事ができない。 そう感じたからだ。 ハンドルを握りながら、眞門は自分に言い聞かす。 ・・・仕方ない。 俺達は結ばれる運命じゃなかった。 そう思うしかないんだ。 あれ以上、星斗の側に居たら、星斗を追い詰めるだけ追い詰めて、苦しませるだけだ。 そして、またSub dropさせてしまうかもしれない。 俺が星斗を幸せにしてあげられる方法は、たったひとつ。 星斗と別れてあげることだけだ。 星斗が首輪を外した瞬間から、俺達は既に終わっていた。 なのに、俺がどうにかしようとしたのが愚かだった・・・。 本当に星斗には可哀相なことをした。 もっと、早く別れてあげるべきだった・・・。 星斗に別れを告げた後も、眞門はまだ自分を責め続けた。 と、眞門のスマホが着信を知らせた。 相手は愛美からだった。 眞門は車を道路の脇に一旦停止させた。 そして、通話に出る。 「はい」 『お兄ちゃん、今、どこ?』 愛美のその言葉を聞いて、星斗と初めて出会った夜の出来事が鮮明に蘇って来た。 そう言えば、あの夜。 愛美に勝手に失恋して、愛美から電話があって・・・非常階段の踊り場で星斗に抱きしめられて、泣いたんだっけ・・・。 どれだけ星斗の存在が自分に大切だったかを思い出すと、星斗を失った悲しみが一気に溢れ出し、自然と涙まで溢れ出してくる。 『・・・お兄ちゃん、聞こえてる?』 眞門の返事がないのが気になるのか、愛美は問いかける。 『・・・もしもし?』 「悪い、今、取り込み中で。後で、かけ直す」 眞門は涙交じりの声でそう言うと、通話をすぐに切った。 そして、抑えられない涙を、Domの習性からか、なんとか抑え込もうとする。 『俺は離れないから・・・お願いだから、離さないで・・・』 あの夜に星斗に抱きしめられながら、伝えられた声、想い、体温。 まだ、どれも鮮明に思い出せる。 『あなたと離れたくない。ずっと側に居たい。俺を離さないで』 あの夜に言われた星斗の言葉が何度も、何度も、頭の中でリフレインする。 星斗に触れられるのはもう思い出の中だけ。 その現実に今更襲われると、胸が苦しくなった眞門は、両手で顔を覆い、涙を抑え込む事ができず、泣き崩れてしまった。 どうして、俺は、初めて出会ったあの夜から、もっと優しく、もっと大切に、星斗を扱ってやれなかったのか。 そうすれば、もっと、何かが違っていたはずだ。 「自分で首輪をつけておいて・・・なんでだ・・・っ」 眞門はいくら悔やんでも、悔やんでも、悔やみきれない。 戻れるものなら、あの初めて出会った夜に戻って、もう一度、全てからやり直したい。 そして、絶対に言ってやるんだ。 「俺も離さないよ。大切にするからね」 そう言って、首輪をつけてやるんだ。 しかし、それは、もうどうすることも出来ない現実。 眞門はそれを悔しがると、 「ごめんな、星斗。本当にごめんな・・・」 と、自分の不甲斐なさを遠くから星斗に詫び、眞門もまたその場で泣き明かした。

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