133 / 311
今夜でお別れ②
眞門は星斗を残し個室を飛び出すと、ステーキハウスの地下駐車場にやってきて、すぐに愛車を発進させた。
行く当てはないが、星斗から少しでも遠くに離れた場所へ行きたい。
そうしなければ、星斗への想いを捨て去る事ができない。
そう感じたからだ。
ハンドルを握りながら、眞門は自分に言い聞かす。
・・・仕方ない。
俺達は結ばれる運命じゃなかった。
そう思うしかないんだ。
あれ以上、星斗の側に居たら、星斗を追い詰めるだけ追い詰めて、苦しませるだけだ。
そして、またSub dropさせてしまうかもしれない。
俺が星斗を幸せにしてあげられる方法は、たったひとつ。
星斗と別れてあげることだけだ。
星斗が首輪を外した瞬間から、俺達は既に終わっていた。
なのに、俺がどうにかしようとしたのが愚かだった・・・。
本当に星斗には可哀相なことをした。
もっと、早く別れてあげるべきだった・・・。
星斗に別れを告げた後も、眞門はまだ自分を責め続けた。
と、眞門のスマホが着信を知らせた。
相手は愛美からだった。
眞門は車を道路の脇に一旦停止させた。
そして、通話に出る。
「はい」
『お兄ちゃん、今、どこ?』
愛美のその言葉を聞いて、星斗と初めて出会った夜の出来事が鮮明に蘇って来た。
そう言えば、あの夜。
愛美に勝手に失恋して、愛美から電話があって・・・非常階段の踊り場で星斗に抱きしめられて、泣いたんだっけ・・・。
どれだけ星斗の存在が自分に大切だったかを思い出すと、星斗を失った悲しみが一気に溢れ出し、自然と涙まで溢れ出してくる。
『・・・お兄ちゃん、聞こえてる?』
眞門の返事がないのが気になるのか、愛美は問いかける。
『・・・もしもし?』
「悪い、今、取り込み中で。後で、かけ直す」
眞門は涙交じりの声でそう言うと、通話をすぐに切った。
そして、抑えられない涙を、Domの習性からか、なんとか抑え込もうとする。
『俺は離れないから・・・お願いだから、離さないで・・・』
あの夜に星斗に抱きしめられながら、伝えられた声、想い、体温。
まだ、どれも鮮明に思い出せる。
『あなたと離れたくない。ずっと側に居たい。俺を離さないで』
あの夜に言われた星斗の言葉が何度も、何度も、頭の中でリフレインする。
星斗に触れられるのはもう思い出の中だけ。
その現実に今更襲われると、胸が苦しくなった眞門は、両手で顔を覆い、涙を抑え込む事ができず、泣き崩れてしまった。
どうして、俺は、初めて出会ったあの夜から、もっと優しく、もっと大切に、星斗を扱ってやれなかったのか。
そうすれば、もっと、何かが違っていたはずだ。
「自分で首輪をつけておいて・・・なんでだ・・・っ」
眞門はいくら悔やんでも、悔やんでも、悔やみきれない。
戻れるものなら、あの初めて出会った夜に戻って、もう一度、全てからやり直したい。
そして、絶対に言ってやるんだ。
「俺も離さないよ。大切にするからね」
そう言って、首輪をつけてやるんだ。
しかし、それは、もうどうすることも出来ない現実。
眞門はそれを悔しがると、
「ごめんな、星斗。本当にごめんな・・・」
と、自分の不甲斐なさを遠くから星斗に詫び、眞門もまたその場で泣き明かした。
ともだちにシェアしよう!