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お願い
星斗と眞門と別れて、二か月が経ち、季節も冬から春へと移り変わろうとしている。
「渋谷さん、お久しぶりです~。最近の体調はいかがですか~?」
定期検診に訪れた星斗に、寺西は毎回の如く優しく尋ねる。
「・・・・・」
「どうですか~?」
「・・・・・」
「最近はどうしていらっしゃいましたか~?」
「・・・・・」
星斗はぼんやりとしている。
ついに、上の空でいる事が癖になってしまったのか・・・?
・・・これは、辛い事があり過ぎたSubが起こす現実逃避の兆候なのだろうか?
寺西は星斗の様子を静かに見守った。
「・・・先生」
星斗は虚ろな表情のまま、突然語り出した。
「なんでしょう」
「俺、今、婚活してるんです」
「へ?」
「働きたくないから。飼い主を求めて」
「飼い主、ですか?」
「先生が教えてくれた通り、俺、すごくモテるんです。
自分でも驚いたくらい・・・。
五分程話して、また、違う方と五分程話して・・・それを繰り返すイベントに毎週末参加してるんです。相談所の人に勧められて」
「はあ・・・」
「でも、俺、何もアピールすることがないから、いつもこう、アピールするんです。
無職の依存系Subです。飼い主を求めていますって。
そしたら、内緒で渡されるんですよ、連絡先を」
「はい・・・」
「でも、相談所の山本さんって方が、どうしてだか、俺のことをいつもずっと見張っていて、パーティーが終わった直後に、それらを全部没収するんです。規則違反だからって。で、それで、この前、大喧嘩になって・・・」
「・・・・・」
「山本さん、すごく良い人なんですけど、すごく口が悪くて。
うちの母ちゃんなんかよりも全然怖くて・・・他人にあんなに叱られたの初めてだ・・・」
「・・・・・」
寺西は星斗が何を語り出したのか分からず、とりあえず耳を傾けてやる。
「お前はハナから飼い主なんか求めてないのに、なんで、ここに来てるんだ!って。
真剣に相手を探しにここに来ているDomの方に失礼だから、もう来るなって。
一ヵ月は黙って見守ってやったが、さすがにお前の態度は許せないって」
「・・・・・」
「でも、山本さん、どうしてだか、そんな俺の友人になってくれたんです。初めて出来たSubの友人です。すごく信頼できる人です。
その山本さんに言われたんです。
『答えを伝えに行ってこい』って」
「答え、ですか?」
「それでダメなら、後は俺が全力でサポートしてやるって。絶対、良い飼い主を見つけてやるからって」
そこまで話すと、星斗の目の焦点がようやく戻った。
そして、迷いが吹っ切れたように、星斗は寺西をじっと見つめた。
「・・・先生、お願いがあるんです」
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