137 / 311

お願い

星斗と眞門と別れて、二か月が経ち、季節も冬から春へと移り変わろうとしている。 「渋谷さん、お久しぶりです~。最近の体調はいかがですか~?」 定期検診に訪れた星斗に、寺西は毎回の如く優しく尋ねる。 「・・・・・」 「どうですか~?」 「・・・・・」 「最近はどうしていらっしゃいましたか~?」 「・・・・・」 星斗はぼんやりとしている。 ついに、上の空でいる事が癖になってしまったのか・・・? ・・・これは、辛い事があり過ぎたSubが起こす現実逃避の兆候なのだろうか? 寺西は星斗の様子を静かに見守った。 「・・・先生」 星斗は虚ろな表情のまま、突然語り出した。 「なんでしょう」 「俺、今、婚活してるんです」 「へ?」 「働きたくないから。飼い主を求めて」 「飼い主、ですか?」 「先生が教えてくれた通り、俺、すごくモテるんです。 自分でも驚いたくらい・・・。 五分程話して、また、違う方と五分程話して・・・それを繰り返すイベントに毎週末参加してるんです。相談所の人に勧められて」 「はあ・・・」 「でも、俺、何もアピールすることがないから、いつもこう、アピールするんです。 無職の依存系Subです。飼い主を求めていますって。 そしたら、内緒で渡されるんですよ、連絡先を」 「はい・・・」 「でも、相談所の山本さんって方が、どうしてだか、俺のことをいつもずっと見張っていて、パーティーが終わった直後に、それらを全部没収するんです。規則違反だからって。で、それで、この前、大喧嘩になって・・・」 「・・・・・」 「山本さん、すごく良い人なんですけど、すごく口が悪くて。 うちの母ちゃんなんかよりも全然怖くて・・・他人にあんなに叱られたの初めてだ・・・」 「・・・・・」 寺西は星斗が何を語り出したのか分からず、とりあえず耳を傾けてやる。 「お前はハナから飼い主なんか求めてないのに、なんで、ここに来てるんだ!って。 真剣に相手を探しにここに来ているDomの方に失礼だから、もう来るなって。 一ヵ月は黙って見守ってやったが、さすがにお前の態度は許せないって」 「・・・・・」 「でも、山本さん、どうしてだか、そんな俺の友人になってくれたんです。初めて出来たSubの友人です。すごく信頼できる人です。 その山本さんに言われたんです。 『答えを伝えに行ってこい』って」 「答え、ですか?」 「それでダメなら、後は俺が全力でサポートしてやるって。絶対、良い飼い主を見つけてやるからって」 そこまで話すと、星斗の目の焦点がようやく戻った。 そして、迷いが吹っ切れたように、星斗は寺西をじっと見つめた。 「・・・先生、お願いがあるんです」

ともだちにシェアしよう!