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相談所へ

おばの洋食店のバイトを辞めてきた星斗は、市の福祉保健部の中に設置されてある、ダイナミクス性別者の為のパートナーを斡旋する相談所をすぐに訪れた。 相談所自体はとても小さな部屋で、机と椅子があるだけの、その他には監視カメラが一台設置されてあるだけの、談話室のような広さの部屋だった。 プライバシーに配慮して、完全予約制が導入されており、相談に行く際には、まずは電話かWebで予約することが規則として定められてある。 そして、予約日に訪れると、まずは、担当者との一対一の面談から行うこととなる。 星斗は予約時間を迎えると、その相談所の小さな部屋の扉をノックした。 「どうぞ」 柔らかい男性の声が返って来た。 「どうも」 星斗は軽く頭を下げ、入室した。 「こんにちは。今日、ご予約の渋谷星斗さんで間違いありませんか?」 担当者はまず、本人であるかどうかの確認を取った。 「はい」 「お待ちしてました。それでは、お座りください」 そう促されて、星斗は対面するように置かれていた椅子に腰を下ろした。 「私、この度、渋谷さんの担当をさせて頂くことになりました。山本、と申します。本日はよろしくお願いします」 山本と名乗った担当者はそう紹介すると、自分の首にかけてある写真入りの身分証明書を星斗に提示してみせた。 山本は見た目がまだ若く、20代後半といった容姿で、額を出した髪型がとても清潔そうな印象を与えてくる。 山本は一台のタブレットを見ながら、何か確認作業のようなことを行っている。 「確か、以前、ここを訪れてくださったようで、今、データを探していますので、少しお待ちください。渋谷・・・星斗さん・・・渋谷、星斗さんと・・・」 データを確認出来たようだ。 「・・・なるほど、半年ほど前に一度来ていただいているんですね・・・その際は・・・あ、森さんが担当したんですね。年配の女性ですよね?」 「はい・・・確か、そうでした。優しいお母さんみたいな雰囲気の・・・随分長い時間、親身になって話を聞いてくれました」 「森さんは先月、お辞めになられたのですが、担当は私でよろしいですか? もし、森さんみたいな方がよろしければ、似たような担当者と交代しますが?」 「あ、いえ、どなたでも構いません」 星斗は少々投げやり気味に答える。 「そうですか。それでは私が担当させて頂きますね。それで、首輪の方は・・・?」 山本は星斗が過去に訪れた際に残されているデータから、星斗がつけているばすの首輪の状況の確認を求めた。 「外しました」 そう言う星斗の表情はとても暗い。 山本は星斗が入室してきた時から、星斗の表情を丁寧に観察していた。 あーあ、これは厄介な相談者だわ・・・。 なんで、俺の担当の時間に予約取るんだよっ。 めんどくせぇな・・・っ。 こういう、無気力な相談者って、絶対、後で大きな問題を起こすんだよ。 最悪、極悪Domに捕まって、薬漬けにされて、哀れな結末を迎えるんだよ。 ちゃんと見張らなきゃ・・・仕事が増えるだろう、全くもう! 「そうですか。首輪をお外しになったので、今回、またお越しになられたということですね?」 心でどれだけ愚痴っても、己の仕事に誇りを持つ山本は柔らかい表情と丁寧な言葉遣いは崩さない。 「・・・・・」 星斗はぼんやりしたままで何の反応も示さない。 「渋谷さん~?」 「・・・・・」 「渋谷さんっ」 「・・・あ、すみません」 星斗は我に返ったように返事した。 ・・・おい、大丈夫かよ、この若いの・・・っ。 もうすでに薬漬けとかじゃねえだろうなっ。 山本に不安が広がる。 「どうかされましたか?」 「いえ・・・ちょっと考え込むと、上の空になる時があるんです。俺、こっちの友達がいないから、相談する人もいなくて・・・自分でグルグルと考え込んでしまって」 「そうなんですか・・・」 かなり、ヤバい奴じゃんっ。 要注意人物じゃん・・・っ。 世話がかかりそうで・・・もうすでに泣きたいっ! 山本は自分の見極めは正しかったと思うと同時に、自分の運の悪さを呪った。

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