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前途多難④
「・・・でも、俺、アピールするところがないどろこか、マイナス物件ですよ・・・」
星斗はそう洩らすと、自分の今までの生き方を呪ってしまった。
なんで、俺、無職なんだろう?
しかも何の教養も持ち合わせてこないような生き方をしてきて・・・。
Sub性の発症が人生の邪魔をして、そうでしか生きてこれなかったから、今更そんなことを悔いても仕方ないのは分かってる・・・。
あの頃は、この先、自分が人を死ぬ程好きになるなんて想像もしてなかった。
むしろ考えていたのは、父ちゃんと母ちゃんが亡くなったら、後は山奥にでも行って、明生に迷惑がかからないようにひっそりと野垂れ死に死のう、と。
そんな後ろ向きなことしか考えてなかった。
そんな自分が今は誰かと人生を歩んでいきたい、だなんて。
もし、知未さんと出会う運命がこの先あるよって誰かに教えてもらえてたら、もう少し上手く生きようとしたはずだ。
自分が誰かの希望になる。
そんな希望があるんだよ。
そう教えてもらえていたなら、もっと前向きに生きていけてたはずだ。
人生って、なんで、こんなにも都合よく出来てないんだろう・・・。
星斗は、今更、悔やんでも何にもならないことを散々心の中で悔やんだ。
それは、眞門が自分のことを父親に紹介しない理由が簡単に推測出来てしまうからだ。
『ニート』
なんて強力なキラーワード。
そんな肩書を持つ交際相手を誰だって親に紹介したいわけがない。
「・・・ごめんなさい」
心の嘆きから行き着いた先のキラーワードが原因で、星斗は唐突にまた謝ってしまった。
「・・・えっ!? どうしたの?」
理由が分からない突然の謝罪に眞門は驚く。
「だって、俺が自慢できる恋人なら・・・」
「また、それか・・・」と、眞門がうんざりした顔で洩らすと、「星斗は充分自慢できる恋人だよ・・・」と、慰めた。
そして、
「あのね、父親に星斗をなかなか紹介しないのはね、星斗に問題があるからじゃなくて、俺の父親に原因があるからなんだよ・・・」
と、どこか重い口調で言葉にした。
「問題・・・?」
「星斗はNormal性を持つ両親に育てられて、本人もNormal性育ちだから、Normal性 の考えで物を考えるけど、うちの父親はDom性だ。だから、所謂、世間一般 でいう父親像とはかけ離れてる人なんだ・・・」
「???」
そこまで言うと、眞門はなぜか口籠った。
その先はあまり語りたくはない。
そんな顔をしている。
「・・・知未さん、どうかしました?」
「・・・あのね、驚かないでね。うちの父親はね・・・"マスター "なんだ」
「マスター ・・・?」
星斗は思わず首を傾げた。
どういうことなのか?を考えてみる。
先生・・・?
あ、そうだっ!
知未さんのお父さんって、確か、産婦人科のお医者さんだったはず!!
「・・・それは、産婦人科の"先生 "ってことですよね?」
「いや、そういうことじゃなくて・・・ダイナミクス性を持つ者の指導者 。その立場に立つうちのひとり、なんだ・・・」
「ん???」
どういうこと・・・?
指導者 って、何?
初めて聞く言葉なんですけど???
星斗はまた首を傾げた。
「俺がDom性である以上、指導者 であるうちの父が大事にするのは、星斗の人柄だとか、経歴だとか、そんなことじゃないんだ。
例えば、クズなSubがいて、それを調教する立派なDomがいる。それをうちの父親は相性をよしとするんだ。
要はうちの父親が俺たちの交際を認める判断は、指導者 の目から見て、似合いのカップルであるかどうかなんだ」
「?????」
知未さん、急に何を言い出しているんですか?
やはり、さっきの謝罪のストレスで頭がおかしくなったんですか??
だから、指導者 って、何なのか説明してもらえませんか???
突然明かされた眞門の父親の秘密に理解が追いつかない星斗は傾げた首を元に戻せなくなった。
「要するに、相性が悪いと判断された場合は、反対どころか、俺達は別れさせられることになる」
「! そんな!?」
眞門はそこまで言うと、その後は何も説明せずに黙り込んでしまった。
不安で思い詰める顔色に変わった眞門を見て、からかい半分の冗談で口にした話などではなく、
本当の話なんだと、思い知ると、
先行きがただならぬ気配に覆われてきた己の人生を星斗はまた呪いたくなった。
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