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実行
その日の夜。
ひとりで眞門の帰りを待つ星斗の元に、いつもより仕事を遅くに終えた眞門が帰宅した。
「おかえりなさい」と、リビングで出迎える星斗。
「ただいま。急な会議で遅くなってごめんな。晩御飯はもう済ませた?」
「はい」
「ごめんな。ひとりで寂しく食べさせて」
眞門は申し訳なさそうな顔を見せると、お利口でした、そんなご褒美のような軽い口づけを星斗の頭にしてやる。
「それで、昼間に山本さんと会ったの?」
「はい」
「楽しかった?」
「はい」
「なら、もっとたくさん話せる時間に会ってくれば良かったのに」
「でも、知未さんがいる夜や休日は、俺が知未さんとなるべく一緒にいたいから」
山本が気遣ってくれた本当の理由は内緒にすると、星斗は気恥ずかしくなって、思わず照れてしまった。
「そっか」
しかし、そう言われた眞門の方は嬉しかったのか、満更でもない顔を浮かべて、笑みをこぼした。
「じゃあ、俺は風呂に入るよ」
眞門はそう言うと、スーツを着替えに、階下にあるウォークインクローゼットに向かって螺旋階段を下りて行った。
星斗はその背を見送りながら、「やっぱり、知未さんは優しくなったな・・・」と、改めて、心の中で呟いた。
そして、山本に言われた言葉を思い出す。
『それはお前とよりを戻して、心が安定したからじゃないのか?』
俺と一緒にいるから、知未さんのDom性が落ち着いてるってことなのかな・・・。
だとしたら、俺は知未さんの役に立ってるってことなんだよな・・・。
なのに、俺は・・・。
そう思うと、今から実行しようとしている計画がとても申し訳なくなり、「ごめんなさい・・・」と、心の中で呟いた。
※ ※
眞門の家はメゾネットタイプのマンションの一室で、リビングと水回り関連は階上に当たるフロアに、寝室やウォークインクローゼット、書斎などのプライベートな空間は階下に当たるフロアにある。(※ちなみに、玄関は階上にあたる部分にあります)
眞門が階上にある浴室に行ったことを確認すると、星斗はリビングから素早く螺旋階段を下りて、寝室に向かった。
ベッド脇にあるチェストの上には、眞門の充電中のスマホが無防備に置きっぱなしにされていた。
悪いことをしている、そんな自覚からか、星斗は誰もいない寝室の中をなぜか忍び足になって、こっそりと、その充電中の眞門のスマホに忍び寄った。
このスマホの中に俺のチンコの首輪に関したアプリがインストールされているはずだ・・・っ!
星斗はそのアプリを見つけ出し、自身のシンボルに装着された首輪を勝手に解錠するつもりでいた。
星斗は眞門のスマホをそっと手に取ると、「知未さん、本当にごめんなさい・・・」と、罪の意識からか、また、心の中で謝った。
星斗は手に取ったスマホの画面を見つめた。
まずは、どうやって、スマホのセキュリティロック解除をするかだよな・・・。
「!?」
眞門の充電中のスマホは、なぜか、セキュリティロックの設定がされていない状態だった。
ボタンを押すと、すぐに、画面が開いた状態になる。
えっ、なんで、セキュリティロックを設定してないの・・・?
不用心過ぎない・・・!?
仮にも代表取締役社長だよ!?
誰かに見られたらどうするつもり!?
例えば、質の悪い人間に大事な情報を消去されたりでもしたら、どうするつもりなんだよ・・・?
・・・って、それ、俺じゃんっ。
「・・・・・」
悪いことをしている。
その自覚がある星斗は自分の言葉にショックを受け、落ち込んでしまった。
眞門がスマホにセキュリティロックを設定していないことに不自然さを覚えるが、でも、これは自分にとっては、とんでもなくラッキーなことだとも思えた。
罪人に落ち込んでる暇などないっ!
この幸運を味方につけないとっ!
星斗は気を取り直すと、すぐさま、お目当てのアプリを探した。
「・・・えーっと、どれだろう・・・? どれだ・・・どれだ・・・」
小さく呟くながら、星斗はスマホの画面に集中した。
が、そのせいで、星斗は全く他の気配に対し、気を配ることを疎かにしてしまった。
「星斗、そのスマホは仕事用だよ」
浴室にいたはずの眞門の声が背後から聞こえた。
「!!」
その声に合わせたように、星斗はビクっ!と体を震わせると驚いた。
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