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眞門の隠しごと

定時に仕事を終えた眞門はその帰りに、友人であり、ダイナミクス科の主治医でもある寺西のクリニックを訪れた。 午後の診察を全て終えた診察室で、眞門は患者用の椅子に腰を下ろした。 「俺に相談ってなんだ?」と、寺西。 「何か心配事か? 定期的な診察ならもう大丈夫だろう? お前にはきちんとしたパートナーが出来たんだから、俺のお陰で」と、寺西は感謝しろよ、とばかりにニンマリとした。 「そうなんだけどさ・・・」 そう返答した眞門は、太ももを手で摩りながら、なにやらソワソワとした態度を見せる。 「・・・どうした? また、何かトラブってるのか・・・!?」 眞門の様子が気になる寺西は、間髪入れずに質問する。 「いやいやっ! 順調そのものだよ・・・」 「そうか・・・。なら、何しに来た?」 「頼みが・・・あるんだけどさ・・・」 眞門は躊躇いがちに口にする。 「なんだ?」 「あのさ・・・」 「ああ」 「その・・・抑制剤を処方してもらえないかなーって思って・・・」 「抑制剤・・・? 何のために?」 「何のためにって、ほら・・・俺ら、結ばれたばかりだからさ、その・・・なんて言えばいいのかな・・・色々と求め合うものが激しいというかさ・・・」 「・・・・・」 寺西はその言葉にどこか不自然さを感じた。 「それで良いじゃないか。それでこそ正常だろう? それでこそダイナミクス性のカップルじゃないか。そうじゃなきゃ、何のためにパートナーを作る必要があるんだ?」 「そうなんだ、そうなんだけどさ・・・俺は今、仕事が忙しくてさ、星斗は無職だろう。だから、その、あっちの・・・夜の営みのつり合いがうまくとれないというかさ・・・」 「・・・・・」 寺西はやっぱり不自然に感じた。 今までの経験上、そのような理由で抑制剤が欲しいと頼んできた患者が存在しなかったからだ。 パートナーが出来た本来の時期なら、野性的になってPlayを一番に楽しみたいはずだ。 なのに、それを抑制したい・・・??? しかも、Dom性が? 己の欲望を抑えるのが苦手なDom性が、だ。 寺西はどう考えても、眞門の頼みは不自然としか思えて、納得いかなかった。 寺西はそのまま眞門を観察することにした。 いつもはDom性らしくふてぶてしい態度のはずが、今日に限って、妙にオドオドしているように見える。 まるで、悪事を問い詰められた担任の前で、バレないように下手な演技で平然を装っている小学生の様だ。 俺に気づかれたくない、何かを隠している・・・? 寺西は目の前にいる眞門をそんなふうに見て取れた。 寺西はどうするべきか?を考える。 無理に問い詰めたとして、眞門は本当のことを話すだろうか? いや、話すなら、最初から打ち明けているだろう。 Dom性はあまり人に頼りたがらない特性を持っている。 ここで無理に問い詰めると、臍を曲げて、他の医者のところに行きかねない。 そうなる方が、眞門の今後が把握が出来なくなって、医者の立場としても親友の立場としても、むしろ厄介になりそうだ。 ここはひとまず、泳がそう。 寺西は答えをはじき出すと「・・・分かった」と言って、眞門の希望に沿う形を取ることにした。 パソコン画面に向かうと、寺西は処方箋を記入し始めた。 その行為を見て、眞門はホっとしたような安堵の表情を見せた。 「但し、条件があるからな。 お前には必要ないと思われる薬を出すんだ。 だから、何か困ったことが出来たら、すぐに俺に相談しに来いよ。 後、何に使うのかは知らんが、抑制剤には限界があるからな。 抑制剤は決して万能じゃない。 まあ、改めて言わなくても、お前は分かっているとは思うがな」 「・・・ああ、分かってる。ありがとう」 礼を言うと、眞門は神妙な顔つきに変わっていた。

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