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父親に会いに行く日

そして、週末の日曜日―。 星斗と眞門の父親が初対面する、その日がついに訪れた。 洗面所にいる眞門は、「ハァー」と、とても大きなため息をついた。 そして、乱暴な操作で蛇口から水を出すと、またもや憂鬱そうに、「ハァーっ」と、大きくため息をつく。 気が滅入って、出かける支度をする気力が全く起きない・・・。 眞門は心の中でそう嘆く。 自分で今日という日をセッティングしておきながら、隕石が突如落ちてきて、キャンセルになったりしないだろうか、眞門はそんな幼稚なことを願ったりもした。 あの父が、すんなり認めてくるだろうか・・・? ・・・いや、100%ない。 あの人は混乱を呼ぶだけだ。 ー星斗と父を会わせるー イヤな予感しかしないことが眞門を朝から憂鬱にさせていた。 父親の拓未(たくみ)が世間の父親とは少し違う。 そう気づき始めたのは、眞門が中学生になった頃だ。 眞門が思春期を迎えると、やたらと、眞門の好きなタイプ(Sub)を聞いてくるようになった。 そして、学校で習う性教育とは他に、「こういうPlayの状況の時には、こう言って、Subを罵ってあげると喜ぶんだよ」と、親からは絶対に教わりたくない性教育を勝手に説かれたりするようになった。 多感な時期の、親からの生々しい性教育。 拓未からそんな話を聞かされる度に、『父はNormalの母にどんな仕打ちをしていたんだ、そんな行為をするからこそ、母から離婚される羽目になったんだ』と、腹正しさを覚え、同時に軽蔑もした。 拓未が世間で言う変わり者なのは、間違いなく、拓未が"マスター"と呼ばれる存在だからだろう。 "マスター"と呼ばれるDom性を持つ者は、ダイナミクス性に悩みを持つ者を正しい方向へ導く使者と呼ばれている。 ・・・が、実際は少し違う。 法律や医療では解決出来ない問題を一手に引き受け、ある強引な能力を使って解決してしまう。 影の裁き人といった側面があるのが実情だ。 ある者は正義の使者のようにも言うが、ある者ははた迷惑な厄介者だと煙たがる。 彼らがその宿命を帯びて生きようとするのは、ある特別な能力を持って生まれてくるからだ。 但し、Dom性であることが邪魔をし、それが時にとても身勝手な行動に出てしまい、度々、トラブルを起こす原因になっている。

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