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父親に会いに行く日②

眞門は思う。 そんな父の目には、Normal育ちの星斗がどんなSubに映るのか? 決して、褒めはしないだろう。 同じDom性ながら、父が見えている世界と自分が見えている世界は全く違うのだ。 父は星斗の家柄や経歴を問題にする人ではない。 むしろ、そこで判断する親の方が良かったかもしれない。 それならば、コネでも裏金でも使えるものならなんでも使って、星斗を世間が羨むような大学や会社にねじ込めば済む話だからだ。 「ハアー」 また、憂鬱にため息をつくと、眞門は心の中で呟いた。 星斗を父に会わす。 そう決めてから、最も考えられる最悪な答えが俺の中にある。 それは交際の反対ではなく、賛成してやろうと思い、『私が星斗クンをお前にふさわしいSubへと指導する』。 そう言いかねないことだ。 「・・・・・」 いや、あの人なら絶対にそう言う。 なぜなら、あの人は俺の父である前に"指導者(マスター)"だから。 「やっぱり、お腹痛いとか言って会いに行くの中止にしようかな・・・」と、意気地をなくした眞門は、ズル休みを企む小学生の様なことを幼稚に考えだす。 けど、うちの父親からの正式な交際の許しをもらわないと、星斗の母親からは許しがもらえない。 『問題なく、いつまでも一緒に』 アフターケアの夜に、胸の中で抱く星斗が口にした言葉だ。 あの時の星斗に約束したんだ。 いつまで、幸せに一緒にいるって。 「・・・よしっ!」 憂鬱な気持ちを押し込めるだけ押し込めると、気合を入れる様にそう声に出し、自身が社長を務める自社製品のコンタクトレンズを手に取ると、左右それぞれの目に装着し始めた。 と、そこに、「知未さんーっ」と、助けを呼ぶような声と共に洗面所の扉が開いた。 「ネクタイを結んでもらえませんか~」と、白いワイシャツ姿にネクタイを手に持った星斗が甘ったるい声で入って来た。 「少し待って」 コンタクトレンズの装着に気を取られている眞門はそう返答する。 「・・・あの、前から気になってたんですけど、知未さんって、視力が悪いんですか?  でも、それにしては眼鏡をかけている姿を一度も見たことがないんですけど?」 コンタクトレンズを慣れた手つきで装着する眞門を眺めながら、星斗は以前から気になっていたことを問いかけてみた。 「・・・だって、視力は良いから」 「??? ・・・なら、どうして、コンタクトレンズなんか・・・?」 星斗がその疑問を呈したと共に、コンタクトレンズを装着し終えた眞門が星斗の方に視線を向けた。 「えっ・・・、星斗、どうしたの、その格好?」 白のワイシャツにネイビーのスラックス姿の、まるでサラリーマンのような格好で現れた星斗に眞門は怪訝な顔をする。 「えっ、変ですか!?」 星斗は焦った。 「スーツなんか持ってたんだ?」 「まあ・・・一着だけ。安物ですけど。弟にこの日の為に実家から持ってきてもらったんです」 「そう」 「うちに挨拶に来てくれた時の知未さんを見習って、俺もスーツでビシッと決めて、お父さんのところに挨拶に伺おうかと。なんせ、ノーアピールですから、身だしなみだけはきちっとしておこうかと」 「ふーん・・・。でも、いいよ。ラフな服装に着替えて」 「えっ!?」 「俺もラフな格好で行くし」 「いや、でも、そんな格好でお会いするだなんて、失礼に当たりませんか?!」 唯一、体裁が保たれる身だしなみが失ってしまう! 眞門の提案に星斗は大いに焦った。 しかし、眞門はどこか憂鬱そうな顔を見せると、「大丈夫。うちの父親の方が絶対に非常識だから」と、重い口調で口にした。 「・・・非常識、ですか・・・?」 星斗はそう繰り返すと、戸惑ってしまう。 なんて声を掛ければ良いんだろう・・・? こういう場合、なんて言葉を掛ければ、知未さんの心を軽く出来るんだろう・・・? 戸惑ったままでいると、「星斗」と、声を掛けられる。 「はい」 星斗が返事すると、今度は眞門が真剣な顔つきに変わっていた。 「星斗は俺の横にいて、黙ってるだけで良いからね」 「え?」 「何も話さなくて良いから」 「・・・・・」 「話は俺がするから」 「・・・・・」 「星斗のことは俺が守るからね、絶対に」 「・・・分かりました」 眞門の真剣な顔つきが星斗を逆に不安にさせた。 知未さんのお父さんって、一体、どんな人なんだろう・・・?

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