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父親に会いに行く日③
結局、ネクタイを自力では上手く結べなかった星斗は、スーツで行くことを諦め、眞門の提案に従って、シンプルなカジュアルシャツで行くことにした。
眞門の愛車に乗り込むと、目的地に向かう中で助手席に座る星斗に対し、自分の父親がどういう父親であるか、眞門が初めて語り始めた。
「いいかい、うちの父親はDom性が強いからか、自分が正しいと思うと、平気で非常識な行動を取ることがあるんだ」
「はあ・・・。でも、それって、普通のDom性とはどう違うんですか?」
「本当のGlare が使える。これが"マスター"として生まれてきた証なんだ」
「本当のGlare、ですか・・・?」
星斗は当然、本当のGlareとは何か? 疑問に思う。
「俺が普段、星斗に使っているGlareは、父が俺の研究に協力してくれたお陰で使えることになった力なんだ。
マスター の能力を研究して発明されたコンタクトレンズを装着しているから、あのGlareが使える」
「?」
「本来、Dom性を持つ者は皆、Glareを使用する際は瞳の色を変えるんだ。
けど、その行為はすぐに禁止された。
個人差は多少あるけど、限界数を超えて使うと、必ず失明してしまうんだ」
「ええ!?」
「だから、皆、オーラようなものを発現させる方法に切り替えた。
Domの学校でもそのようにGlareの発動方法を教えられる。
でも、オーラのように発現させるGlareには、Subを癒したり、催眠をかけたりできる能力はなくてね。
ただ、ライバルのDomを威嚇したり、うまく表現できない己の感情をオーラで表したり出来るぐらいなんだ。
まあ、Subとコミュニケーションを取るには、その程度の力で充分なんだけどね。
ただ、そんな中で瞳の色を変えるGlareをいくら使っても失明しないDom性を持つ者が現れた。
それが俺の父親のDom性、"マスター"と呼ばれる人たちだ」
「・・・・・」
星斗は口をポカンと開け、目をパチクリさせた。
Normal育ちの星斗にとって、まるで異能力者のバトルアクション劇アニメみたいじゃないか?!
と、どこか非現実的な話に聞こえてしまったからだ。
「Glareって、本来はDomの感情をSubに直接伝える行為だ。
例えば、同じCommandを出すにしても、癒しのGlareを使って伝えるのと、怒りのGlareを使って伝えるのでは、その意味合いが全然違ってくるだろう?」
「はい・・・」
「しかし、Glareはいつの間にか、Dom同士の戦いにも使用されることになった。
時代が進むと共に、GlareはDom性の優劣をつける能力に使われていった。
より巨大な力を持つ者が優秀とされ、優秀とされた方がSubにアピールすることが許された。
そんな中、突然変異で現れたのが、"マスター"という能力を持つDom性の人間だ」
「知未さんは違うんですか? 親子なのに? その、"マスター"じゃない?」
「ああ。残念ながら、俺はその能力を受け継いでいない」
運転で前を見つめる眞門の横顔が、星斗にはどこか寂しく映った。
同じDom性でも、能力の優劣が、眞門と父親の確執に繋がってたりするのだろうか・・・?
星斗は勝手にそんな想像をしてみる。
自分が触れてはいけないことだと思い、今まで配慮してきたが、思い切って、気になっていることを聞いてみることにした。
「・・・あの、知未さんとお父さんは、その・・・あまり仲がよろしくないんですか?」
「いや、そこまで悪くないよ。
星斗が不安に感じるような関係じゃない。
うちの会社を立ち上げる時も、一番に出資してくれたしね。
このコンタクトレンズを発明できたのも、うちの父親が積極的に協力してくれたお陰だし。
ただね・・・そりは合わないかなって思うんだ。
いや、違うな・・・。
あの人が、基本デリカシーがないのがいけないんだよ」
あの人・・・?
父親をあの人呼ばわりする時点で、確執はありますって言ってるようなもんじゃありませんか・・・?
星斗は心の中だけで問いかけた。
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