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父親に会いに行く日④
「あの、それじゃあ、知未さんの会社で扱っている商品のコンタクトレンズって、瞳の色を変えるGlareを使っても失明しないコンタクトレンズを販売してるんですか?」
「いや。
このレンズは非売品。
うちの会社でも数人しか知らない社外秘の存在。
ある特定の、ある上顧客にしか流通させていない。
だから、星斗もこのレンズのことは秘密厳守で頼むよ。
うっかり誰かに話したら、とても怖い人達にとんでもない酷い目に遭うからね」
眞門は運転中にも関わらず、人差し指を口元に立てると、絶対に秘密だよ、そんな匂わすポーズを意味ありげに見せた。
でも、これは星斗をからかう眞門の冗談で、社外秘は事実であるが、怖い人達に酷い目に遭うという部分は、眞門が勝手にアレンジして、付け加えたものだった。
「・・・そ、そ、そうですか」
真に受けた星斗は、案の定、不安に襲われた。
だったら、最初から話さないでよ・・・って、俺が聞いたんだった・・・!!
やっぱり、知未さん、見た目とは裏腹のブラック系の社長だったんだっ!?
どう考えても、怪しいと思ったんだよっ。
この年齢であんな螺旋階段がある家に住んで、こんな高級車を乗り回してるなんて、絶対、普通の仕事じゃ稼げないもんっ。
最初に知未さんの部屋で目が覚めた時に感じたインスピレーションが本当は正しかったんだ!!
俺のバカ、俺のバカっ。
もう、引き返せないぞ、俺。
知未さんがどれだけブラックな人でも、引き返せない。
だって、俺は、この人にしか、ご主人様にはなって欲しくないから・・・。
「・・・知未さん」
「ん」
「俺、知未さんとなら地獄の果てまでいく覚悟は出来てますから」
「・・・プっ」と、眞門は思わず笑いを小さく噴き出した。
思惑通り、冗談を真に受けて勘違いしてくれた。
本当にからかいがあって、一緒にいると、とても楽しい。
この喜びはDomにしか分からないだろうな。
そう感じると、星斗のことがまたとても愛おしくなった。
「頼むね、よろしくね」と、眞門はあえて真実は告げず、そう返した。
「でね・・・」
眞門が声のトーンをひとつ低くして、真剣な声付きに変えた。
「うちの父親の瞳が黄金色に輝いたら、Glareの能力を発動した時だから。
うちの父親は簡単にGlareを使うからね。
何度か口にしてるけど、ルールとかマナーとか、あの人はそういうものを持ち合わせていないから。
気をつけてねって注意はしておくけど、そのときには既に強大な力で暗示をかけられたようになって、手遅れなんだよね。
発動したって気づいた時には既に軽いトランス状態に入れられて、"指導者 "の意のままにされる」
「それって・・・防ぎようがなくないですか?」
「ああ。
しかも、厄介なのが、Sub性だけじゃなく、Dom性にも同じように通用するんだ」
「えっ!? Dom性って!? Domにも強制能力が働くってことなんですか!?」
「ああ。
普通のDomなら、Sub性と変わらず簡単に従わせることが出来る。
"マスター"のGlareが確実に作用しない相手は、同じく"マスター"だけ。
だから、"指導者 "に、Dom性からSub性に調教されて、Switch性に変わった人なんて何人もいるんだよ。
だから、彼らは"指導者"とか"先生"って呼ばれるんだ。
個人差はあるけど、人によってはNormal性の人にも作用するらしいし」
「それって・・・ある意味、無敵じゃないですか・・・」
「ああ。
無敵だからこそ、正義の使者だと勘違いしてるんだよ、あの人は」
「・・・・・」
「だから、星斗のことは俺が守るからね」
「・・・あ、はい、よろしくお願いします」
そうは答えたものの、星斗はここに来て、若干怖気づいてしまった。
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