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父親に会いに行く日⑥
乗り込んだエレベーターの内装は、まだ真新しいものに感じた。
そう言えば、このビルの外観もまだ真新しかった。
それを思い出した星斗は、「こちらのビルって、まだ建って新しいんですか?」と、尋ねてみる。
「うーん・・・一年か、二年か、それくらいじゃないかな・・・」
「へぇー」
と、平然を装ったが、一気に緊張が星斗を襲った。
やっぱり、知未さんって、お金持ちのご子息なんだ!
そうだとは思ってたけど・・・。
ビルの案内板に『MA-MON 第四テナントビル』って書いてあった。
ってことは、最低でも、あと他にテナントビルが三つあるってことじゃん。
いやいや、ここまで金持ちだとは思ってなかったよ。
どんなヤバい商売して荒稼ぎしてる親子なんだよっ!
どう考えたって、平民の俺と格差ありすぎでしょ!
もう、DomとかSubとかマスターとか、そんな問題じゃない気がしてきた・・・。
俺、上手く出来るかな?
嫌われずに、この初対面を上手く乗り切れるかな?
緊張を少しでもほぐしたい星斗は、なんでも良いので会話をすることで、緊張をほぐそうと試みる。
「じゃあ、三階の借り手が早く見つかるといいですよね」
「へ?」
「いや、さっき、ビルの案内板を見てたら、三階はまだ借り手が見つかってなかったようでしたから・・・」
「ああ、うん・・・三階はわざと貸してないんだよ」
眞門はどことなく歯切れが悪く返答する。
「へぇー。でも、四階は貸してあるんですね。会員制サロンってどんなお店なんですか?」
「えっっ!?」
なぜか異様に驚いて、眞門は動揺した様子を見せた。
そんな眞門の態度に星斗も困惑する。
聞いちゃまずかったのかな・・・?
「いや、一階と二階は個人医院なのに、四階だけが会員制サロンって書いてあったから、不思議な貸し方するな―って思って。
ほら、テナントビルって、同業種で集まりませんか。
医療系なら医療系、飲食店なら飲食店。
てっきり、会員制サロンて書いてあるから、Domしか入らないBARとか秘密のダンススタジオとか?」
「・・・・・」
眞門は明らかに上に目線を向けたまま、聞こえないふりをしている。
・・・やっぱり、知未さんの態度がおかしい。
「真下に騒がしいお店があるなんて、お父さんは迷惑じゃないんですか?」
「・・・え? あ、それは・・・大丈夫なんじゃない。四階はうちの父親が管理者だから」
「あ、じゃあ、医者を辞めて、そういうお店がやりたかったことですか?」
「と、いうか・・・星斗はここについて、それ以上詳しく知らなくて良いから」
眞門の珍しい素っ気ない態度を、星斗は不思議がった。
そんなに聞いちゃマズイことだったんだ・・・。
星斗はそう思い、このビルについての質問はそこで止めた。
エレベーターが五階に到着した。
エレベーターを降りると、すぐに行く手を阻む防御壁のような鉄板の壁が通路を塞いでいる。
「!」
一瞬、行く手がないのかと驚いた星斗だったが、よく見ると、鉄板の壁の真ん中に、ドアノブの付いた、人が出入りできるくらいの大きさにくり抜かれた扉があった。
眞門は勝手が分かったように、横の壁に取り付けられたインターホンを押す。
『はい』
渋い男性の声がすぐに返って来た。
「俺。知未」
眞門がそう返すと、ガチャンと、目の前の鉄の扉の鍵の開く音が鳴った。
その鍵が開いた重々しい音で、星斗にまた緊張が走る。
遂に知未さんのお父さんと顔を合わせるんだ。
・・・つかみだけは大丈夫。
時間だけは人一倍あるから、あいさつの練習だけはいっぱいやってきた!
緊張で身震いする体にそう言い聞かす。
鉄の壁の扉を通りぬけると、打って変わって、茶系で上品にまとめられた、まるでハイエンドのホテルにでも泊まりに来たかのようなシックな廊下が続いていた。
そして、その奥に、もうひとつの扉があった。
木製の引き戸で、どうやら、このフロア全体を、住居用に丸ごと改造してあるようだ。
眞門は奥の扉まで進むと、何の断りも入れず、ガラーっと扉を開ける。
それほど大きくない玄関だが、シックで落ち着いたモノトーンで統一されていて、インテリア雑誌の見本として見かけるようなオシャレな空間が広がっている。
よく見ると、靴を脱ぐ床材が大理石なのか、真上にあるライトに照らされて光り輝いている。
星斗は玄関を見ただけで、自分の場違い感を感じてしまう。
俺、テナントビルだから、事務所みたいなところを寝泊りできるようにしただけだと勝手に想像してた。
もう、これ、立派な住居に改造してあるだ。
てか、玄関からして、うちの実家より素敵ってどういう事よ!?
ダメだ。
お金持ちの匂いしかしない・・・。
こんな改造するなら、普通にマンション借りれば良くない!?
ここ、別宅でしょ!?
どうせ、デカい家があるんでしょ!?
別宅用にフロア全体を改造するって、金持ちのする事は意味が分からない。
やっぱり、スーツで来るべきだった。
せめて、身なりだけは立派にしておくんだった!!
玄関に足を踏む入れた時点で、星斗は既に戦意喪失してしまった。
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