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父親に会いに行く日⑧

星斗はすぐさまソファから立ち上がった。 「いや、待たせて悪かったね」 眞門の父、拓未が穏やかな口調で声を掛けながら、リビングに入って来た。 その後に連れて、眞門も入って来る。 星斗はすぐさま、 「渋谷星斗と言います! 本日はお忙しいところ、私の為に時間を作って下さり、ありがとうございます!!」 と、拓未に向かって、深々と頭を下げた。 「いや~、初めまして。息子から話は聞いてるよ。まあ、そんな硬くならないで」 先程の調教中(?)会話と"マスター"という存在であることから、畏怖な存在だと勝手に決めつけ、恐怖を感じていた星斗だったが、実際はそんな恐怖など微塵も感じさせないほど、拓未はとても物腰の柔らかい話し方だった。 「!」 頭を上げた星斗は、拓未の顔を初めて見て、ドキッとしてしまう。 見た目は、もうすぐ定年を迎えるような年配の男性には見えないほどの若々しさがあった。 とにかく、体型が崩れていない。 全体的にスッキリとしていて、なにかトレーニングでもしているのだろうか?と思わせるほどの綺麗な体つきをしていた。 確かに、髪には年相応の白髪が混じっているが、毛量が減っていないのと、綺麗にセットしてある髪型のせいで、歳の衰えを印象付ける白髪混じりの髪というより、ダンディと持て囃されるロマンスグレーを演出していた。 顔は正直、眞門とは似ていないと思った。 眞門はどちらかと言うと、あっさりとした温和な顔立ちだが、父の拓未は眼光鋭くキリッとした目つきをしている。 眞門は多分、母親似なんだろうと星斗は察した。 ダイナミクス性を取り除いてみた男目線というものから拓未を見てみると、なんとも言えない男の渋い色気が漂っていて、将来、こんな風に自分も年を重ねていけたらな・・・、そんな憧れを抱かせる男の品格というものが備わっている。 とてもじゃないが、眞門が言っていた、非常識な行動取る人には見えなかった。 Dom性が強いということで、もっとふてぶてしい姿をイメージしていたが、程遠い拓未の姿を見て、星斗はひとつ感じ取れることがあった。 寺西が『眞門はモテないDom』だとよく口にする。 モテる条件を全て兼ね備えている眞門に対し、やっかみで寺西が言っているだけなのでは?と、星斗は常々思っていたが、そうでもない気がしてきた。 とにかく、拓未という人物がその年齢にも関わらず、圧倒的な惹き付ける何かを放っているからだ。 それは"マスター"と呼ばれるDom性だからこそが醸し出すオーラなのか、 それともこれまで培ってきた本人自身の魅力が放たれているのか、 星斗には、それがなんなのかよくは分からないが、とにかく、自分のSub性を心躍らせる魅力が拓未には不思議とあった。 ただ単純に見つめられただけで、このDomに調教されてみたい。 そんな、惹き付ける何かを拓未という人物は放っている。 これが"マスター"の魅力・・・? もし、お父さんが知未さんが同い年だと仮定して、ふたりと同じ瞬間に出会っていたら、俺は、間違いなくお父さんの方に惹かれていたかもしれない・・・。 星斗をそう魅了させるほど、拓未にはDom性としての色気が溢れていた。 星斗は拓未のDom性の魅力に引き込まれてしまったのか、少しぼんやりとしてしまった。 「星斗」 その様子を見て、眞門が心配して声を掛ける。 「あ、すみません。これ、お口に合うか分かりませんが・・・」 我に返った星斗は手土産の紙袋を拓未に手渡した。 「気を遣わせて悪かったね・・・」と、笑顔で手土産を受け取った瞬間、拓未の顔つきが急に険しくなった。 「どういうことだ?」 拓未は厳しい顔つきのまま、眞門に問いかける。 えっ・・・。 やっぱり、3,000円の洋菓子が手土産じゃお気に召さめませんでしたか・・・? でも、知未さんが『父は独り暮らしだから、その程度で良いよ』って言ったんだもん。 こういう時は、やっぱり、ケチケチせず、老舗高級和菓子店の羊羹でしたよね・・・? 星斗は大いに焦った。 「今日は将来、結婚を視野に入れた相手に会わせてくれるんじゃなかったのか?」と、拓未。 「はい、彼が・・・」 「反対だ!」 拓未はブスっとした不機嫌な顔をあからさまに見せる。 「!」 えー、俺は何をマズりましたか・・・? やっぱり、3,000円の手土産・・・? 思い当たる節がない星斗は大いに焦る。

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