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父親に会いに行く日➉
「冗談はよしてくれっ!
仮にもお前は"マスター"の息子だぞ。
その息子が首輪もリードもつけない相手を結婚相手だとして周りに紹介してみろっ。
Domの息子にどんな躾をしてきたんだって、私が笑われるじゃないかっ!」
拓未はひどく怒鳴った。
「そうでなくても、私は知世 さんとの結婚で失敗して、世間から笑い者にされたって言うのに・・・これじゃあ、お前の結婚も世間から笑いものにされるじゃないかっ!」
「心配はご無用です。俺は父さんみたいな失敗はしませんので。俺は無様なDomにはなりません」
「いい加減にしなさいっ! 人を無様なDom呼ばわりしおってっ!! いいから、考え直しなさいっ!!」
拓未は眞門を酷く叱りつける。
「いいえ。俺は決めたんですっ! 俺には彼しかいないって」
「愛に浮かれて、大切なことを見失っているだけだっ!」
「いいえ、そんなことありませんっ。俺の言動がそんなに気に入らないなら、どうぞ勘当してくださって結構ですっ」
「バカなことを言うじゃないっ。
知世さんとの大切な宝物のお前に、いくらDomだからと言って、私がそんな酷いことを出来るわけないだろう!
全く、この子はDomのせいか、小さい時から私に我がまましか言わないんだからっ。
教授に研究成果を盗まれたくらいで医学生を辞めてくるし・・・Domには向いてないとあれだけ反対したのに、会社を興して、勝手に社長業を始めるし・・・」
「我がまましか言わないのは、Dom性だからじゃなく、分からずやのあなたに育てられたからだと思いますよ」
「コラ! いい歳をして、さっきから、その親への口の利き方を直しなさいっ!」
ふたりは、譲らないとばかりに、そのまま睨み合った。
Dom同士の激しい言い争いをSubの星斗が仲裁出来るわけもなく、ただ黙って、眺めているしかなかった。
てか、知未さん、お父さんの前だと反抗期を迎えた中学生みたいになるんだ。
なんか意外だ。
いつも甘えさせてくれてる大人な知未さんしか知らないから。
「・・・分かった。
じゃあ、どちらが正しいことを言っているか、彼に直接聞こうじゃないか」
膠着状態をたどる睨み合いから、拓未がいきなり、そう切り出してきた。
彼って・・・、まさか、俺・・・?
星斗はイヤな予感しかしなかった。
知未さんに黙っていれば良いって言われたのに・・・俺が、この話し合いの決着をつけることになるんですか・・・?
Subの俺が、Domのふたりの話し合いに決着をつけるんですか???
星斗は突然、押し付けられたプレッシャーで心臓が止まりそうになった。
「星斗クンと言ったね。
星斗クンは勿論、知未に首輪をつけて欲しいよね?」
拓未がとても物腰の柔らかい口調で訊ねてくる。
「えっーと・・・」
星斗は返答に困る。
「星斗、俺達には、勿論、首輪なんかなくても平気だよな?」
眞門が勝負に受けて立つとばかりに、星斗に自信満々な顔で語りかけてくる。
「・・・えーっと、それはですね・・・」
どうしよう・・・。
これ、俺が答えなきゃいけないんですか・・・?
何をどう答えたら、正解にしてもらえるんですか・・・?
星斗は困って、思わず顔を下を向けた。
どうする・・・?
どうする・・・?
その時、「星斗クン」と、拓未に呼びかけられた。
「はい」と応じて、顔を上げた瞬間、拓未の瞳が黄金色に輝き出していた。
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