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父親に会いに行く日⑪
拓未の別宅から帰り道。
眞門が運転する車内は重い空気に包まれていた。
結局、拓未との話は物別れで終わった。
その全ての原因は自分だ。
そんな責任を感じる星斗は、帰る車内の中で自分を責めていた。
「・・・ごめんなさい・・・」
星斗は表情を落としたまま謝ることしか出来なかった。
「星斗は全然悪くない。謝らなきゃいけないのは、うちの非常識な父親だ。全く」
眞門はとても不機嫌で応える。
「全く、何考えてんだか・・・っ。
仮にも、れっきとしたパートナーが目の前にいる、しかも息子が結婚を考えている大切な恋人にだよ、
何の断りもなく、Glareをいきなり使うだなんて・・・呆れて物が言えないよっ!
どれだけ、マナー違反をすれば気が済むんだ、あの人はっ。
あそこまで非常識な人だったとは思ってなかったよ・・・っ!!」
眞門は拓未の行いが相当頭に来ているようで、星斗を連れて飛び出してからも、不機嫌でムスっとした表情をずっと崩さなかった。
「星斗は悪くない」
眞門にそう慰められても、星斗は責任を感じてしまう。
眞門を裏切ってしまった、そんな思いにずっと駆られているからだ。
星斗は拓未のGlareの力によって、本音をつい洩らしてしまった。
黄金色に輝いた拓未の瞳を見つめた瞬間、星斗はとても良い気分に誘われた。
そして、「星斗クンは首輪が欲しいかい?」と、拓未に質問された。
「はい。知未さんに首輪を付けて欲しいです・・・」
心に思っていることを素直に述べてしまったのだ。
星斗がその言葉を口にした瞬間、拓未はそれ見ろとばかりに勝ち誇ってみせたが、眞門は鬼の形相となると、拓未を思いっきり睨み付けた。
そして、「金輪際、親子の縁を切ってくださいっ!!」と、拓未を怒鳴りつけると、星斗を連れ出してしまったのだ。
「・・・あの、ごめんなさい・・・」
星斗はなぜか、その言葉しか出てこない。
眞門の期待に応えられなかった申し訳なさと、自分の本音が父親とのいざこざを作ってしまった。
そう思うと、謝罪の言葉しか出てこないのだ。
「星斗、いい加減にしないと怒るよ」
「えっ・・・」
「最近おかしいよ。なんで、俺にそんな謝ってばかりなの? 星斗は全然悪くないだろう?」
「・・・・・」
そう言われても・・・。
なぜか、最近の俺は自分を責めてしまう。
「そんなに謝られてばっかりいると、俺が星斗に悪いことしてるのかな?って感じるだろう」
「・・・ごめんなさい」
「だから、もういいってっ」
眞門はイライラを募らせたように口にした。
「でもっ! 知未さんは怒って当然です。
俺が・・・首輪をつけて欲しいなんて・・・言わなければ・・・こんなことには・・・」
「なんで?
なんで、俺が星斗に怒るんだよ?
というか、あれはすごく嬉しかった」
「えっ?」
「父親のGlareで言わされたってところは絶対に許せないけど、でも、あれは星斗の本音なんだろう?
俺に首輪をつけて欲しい。
本当にそう思ったから、俺の元に戻ってきてくれた。
それが分かって、すごく嬉しかったよ」
眞門は笑顔を見せた。
「だったら・・・っ! だったら、今すぐ首輪をつけてくださいっ。
そうすれば、お父さんも俺たちの交際を認めてくれるじゃないんですかっ」
「そういう問題じゃないんだよ、星斗」
「・・・・・」
「嬉しいけど、星斗には首輪はつけないよ。
大好きだから、首輪を付ける。
誰かに取られたくないから、首輪を付ける。
そんな考えだけで突っ走ったって、何も上手く行くわけない。
現に、俺は感情に支配されたせいで、星斗を2度も失っているんだ。
だから、そんな愚かなDomにはなりたくない。
俺は大切な人を当たり前に大切に出来る人でありたい。
星斗なら、それが分かってくれるだろう?」
・・・分かる。
知未さんはそういう人だから。
だから、こんなに好きになった。
でも、俺は・・・。
「・・・分かりました」
「ありがとう。
星斗なら、絶対に分かってくれると思ってたよ」
眞門は嬉しそうに微笑んだ。
星斗はそれに合わせて愛想笑いを浮かべた。
・・・でも、俺は、あなたに繋がれていたいんです。
繋がれていたいのがSubという生き物なんです・・・。
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