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災難は勝手にやってくる④
「じゃあ、上げてみるからね」
拓未はそう言うと、ポケットから小さなリモコンを出して、ボタンを押す。
その指令に従って、天井から吊り下げられたロープは上へとゆっくり電動で巻き上げられていく。
星斗の足元が少し浮いた、やや、つま先がつくかつかないか、すれすれのところで、拓未は巻き上げていたロープの動きを止めた。
「どうだい、初めて、自由を奪われて吊り下げられた気分は? 心にグッと込み上げてくるものがあるだろう?」
「特には・・・」
星斗は表情一つ変えない。
「特に・・・?
ワクワクしないかい!?
これだ!って、これを私は待ち望んでた!!
そんな高揚感が湧き上がって来て、たまらないだろう?」
「いいえ」
表情ひとつ変えない星斗の態度に、拓未は言葉を失う。
「キミは随分と変わり者だね・・・。
私に拘束されて興奮しないSubを初めて見たよ。
じゃあ、普段は知未にどんなことをされたら興奮するんだい?」
「興奮・・・?
俺の胸が一番高ぶるのは・・・知未さんが・・・」
「知未が?」
「俺がご主人様だろう、っていう顔で俺を見つめる時です。
俺以外の者を見るんじゃない。
あの高圧的な顔をされたら、俺は何されても良い・・・」
そう言うと、星斗の顔が突然、恍惚の表情へと変貌した。
多分、眞門の俺様な顔を思い出して、興奮しているのだろう。
しかし、
「・・・キミは一体、何を言っているんだい?」
と、拓未はポカンと呆けた間抜けな顔をしていた。
"マスター"であるにも関わらず、星斗の興奮するポイントが全く理解出来ずにいた。
「Playの内容ではなく、Domの顔で興奮するというのかい・・・?」と、戸惑ったようにさらに投げかける。
拓未が、未知との遭遇だ、そんな様子で戸惑っていると、ドカーンっ!と、すごい勢いで、『Play Room』に通じる扉の開かれる音がした。
そして、「父さんっ!! どこにいるんですか!!」と、すごい剣幕で声を張り上げながら、
眞門がドスドスと怒りに満ちた足音を立てながら入って来た。
「星斗をどこに連れて・・・!!!」
半球体状の小部屋で天井から吊り下げられている星斗を見て、眞門は一瞬、目の前が真っ暗になって、気を失いかけた。
眞門の恐れていたことが現実に起こっていたからだ。
「・・・何をやってるんですか!!
星斗は俺のSubですよっ!
俺の大事なSubなんですよっ!
なのに、俺の許しもなく勝手にこんなことするなんて・・・っ!!
マナー違反の範疇を超えて、もう立派な犯罪ですよ、これはっ!!
弁護士を立てて訴えますからね!!」
酷い光景にショックを受けた眞門はかなりの怒りを表す。
「訴えるって、お前、親に向かって大袈裟な・・・!
大体、そこまで大事なSubなら、首輪をちゃんとつけなさいっ!
首輪を付けていないお前が悪いんだろうがっ!
私だって、首輪をつけてるSubなら手を出さん!」
眞門は星斗に駆け寄ると、両手首に嵌められた拘束具をすぐに外しながら、
「何を言ってるんですか!
首輪を付けていない代わりに、俺はちゃんと部屋に監禁してるでしょうが!
それを勝手に連れ出すなんて、父さんの方が完全にマナー違反ですからね!」
と、反論する。
「あれは監禁でも何でもないだろう。
監禁って言うのは、Subの自由を奪って部屋に閉じ込めておくことだ。
私が訪ねたら、愛想よくコーヒーを出してくれたぞ」
ああ言えばこう言う拓未を眞門は思わずギッと睨み付けた。
本当にこの人には反省という言葉がない。
眞門は苦々しく思った。
「しかし、どうやったら、仕事中にも関わらず、星斗クンが部屋からいなくなったことが分かったんだ?
しかも、いる場所まで特定出来るなんて?
どんな技を使ったんだ?」
自分のした行動に悪びれる様子もなく、拓未は疑問に思ったことを口にする。
「父さんに話す必要はありませんっ!」
星斗に付けてあるGPS のことは、拓未には絶対に秘密にしておこうと誓う眞門。
眞門は星斗の手首にあった拘束具を急いで外すと、まだ催眠状態でいる星斗をお姫様抱っこで抱えた。
「いいですか、今の時代は首輪なんかいらないんですよっ。
自分の大切なSubのことなら、常に把握できる時代なんですっ。
今回のことは絶対に何があっても許しませんから。
金輪際、星斗には近づかないでくださいね!」
「そんなこと言っていいのか。
私が交際を許さないと、お前たちは結婚できないんじゃないのか?」
「どうぞ、お気遣いなく親子の縁を切ってくださって結構です!
残念な父親を持ってしまったことを全て正直に星斗のお母様に報告しに行きますからっっっ!!」
「縁を切るなんてこと、そんな怖しい言葉を簡単に口にしちゃダメだろうが!」
プイッと顔を横に向けると、拓未はまるで駄々っ子のような態度で拒絶した。
拓未は眞門に抱かれる星斗に目をやると、
「星斗クン、最後に、マスター からの命令を聞きなさいね。いっぱい悪い子になって、今から大好きなご主人様を困らせようね。ちゃんとしたSubになるんだろう?」
と、優しい口調で告げた。
「はい・・・」
星斗は素直に従う。
「だから、俺の星斗に構うのは止めてくださいっ!!」
眞門はまた憤慨すると、星斗を抱きかかえて、部屋を飛び出していった。
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