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災難は勝手にやってくる③
Glareの力で簡単に暗示にかけられてしまった星斗は、拓未の意のままに操られる格好となっていた。
拓未は、星斗を眞門の自宅から連れ出すと、別宅がある自身が所有するビルへと連れてきた。
拓未の命令のみに従う暗示をかけられてしまった星斗は、目が虚ろで、心ここになくといった、ぼんやりとした顔をしている。
だが、星斗自身はとても心地良かった。
頭も体もフワフワとしていて、この世に起きる痛みや辛さなどは全て喜びへと生まれ変わる、
この世界には快楽というものしか存在していないんだ、そんなおかしな高揚感で包まれていた。
星斗は拓未に導かれるまま、テナントビルの四階、会員制サロン『Play Room』へと連れてこられた。
ここはマスターである拓未が、DomとSubが愛を交わす為に特別に作った社交場だ。
『Play Room』と掲げられた部屋に入ると、コンクリート打ちっぱなしの大きなワンフロアの中央に球体を半分にした形の、透明なガラスに覆われた小部屋がある。
幾枚ものガラスが輪を描くように連なって、半球体の形を形成している。
ガラスは全て、特殊な技術で作られたマジックミラーで、色んな機能が搭載されてある。
通常は透明化の状態で、小部屋の中の様子は全て外からも明け透けとなっているが、
例えば、ガラスを鏡にする機能を使えば、ガラスの全てが鏡のようになり、部屋の中で行われる淫らな行為が余すことなく、あらゆる角度から鏡に映される状態となり、より淫靡な世界観に浸れる事が出来る。
また、ふたりきりのPlayに没頭したい時は、スモークフィルムになる機能を使えば、ガラス全体に茶色い幕が張られたよう状態になり、外側からの視線を遮断する事が出来る。
但しこの場合、外側からは、小部屋の中の様子は全て丸見えの状態が維持されたままになっているので、注意が必要となる。
※熱いPlayを誰かに見られたいカップル向け。
勿論、外野から覗かれたくないとなれば、スリガラス状になる機能を使うことで、ガラス全体の透明度を白くぼやけさせ、外側から覗くことを完全にシャットアウトすることも出来る。
半球体状の小部屋の中にも、Playで楽しむ為の様々な道具がきちんと用意されてある。
天井から吊り下げられたフックや拘束する為のロープ。
小さな机の上には、赤い蝋燭にアイマスク、口枷用、手枷用、足枷用の拘束具に、しなりがよく効いた鞭。
"X"の形をした磔台や足を大きく開脚させる拘束椅子なども設置されてある。
この場所は、ここに集う、ダイナミクス性を持つ全ての者が楽しむために作られた空間だ。
「星斗クンはこのような場所で息子に調教されたことがあるのかな?」
「ありません」
拓未は哀れむように、何度も首を横に振った。
「はぁー、嘆かわしい。本当に可哀想なSubだな、キミは・・・」
拓未は星斗の顎を指でグイっと掬い上げると、
「だから、こんなにも色気がないSubに育ってしまったんだね。いかにも欲求不満な顔をしていて可哀想に」
と、また哀れんだ。
「最近、満足なPlayをしてもらっていないんじゃないかい?」
「・・・はい」
「そうだろうね・・・。
そうか、キミにSubの魅力がないのは、キミが悪いんではなく、うちの息子が原因だったんだな・・・。
誤解してすまなかったね。
謝罪の代わりと言ってはなんだが、私が知未に代わって、キミを調教してあげようね。
今からキミを誰もが手に入れたいと思う、色気のあるSubにしてあげるからね。
とっても幸せだね?」
「はい、お父様」
「よろしい」
「じゃあ、まずはもっと物欲しそうな顔を見せれるところから始めようか。
いいかい、色気のあるSubの基本は、上品に見えて実は下品。
こういうギャップが大事なんだ。
例えば、礼儀正しい優等生が実はビッチだった。
とても調教し甲斐があるだろう?
ギャップが人を惹きつけ、人を惑わし、人を狂わせるんだ。
それを目指して行こうね」
「はい、お父様」
「よろしい。じゃあ、星斗クン、まずは吊り下げられてみようか。経験はあるのかな?」
「ありません」
「!!! ・・・ない!?
知未の恋人なのに、ないっ!?」
拓未は驚愕したように、酷く驚く。
「キミ、年齢は?」
「21です」
「21にもなって、一度も経験したことがないのかい?」
「はい」
「本当に?」
「はい」
「可哀想に・・・、なんて、不憫な子なんだ・・・。
さぞ、辛かっただろうに。
ハァー、しかし、うちの息子はなんと情けない・・・。
どこに出しても自慢できる立派なDomに育てたと思っていたのに・・・。
一体、Dom校でどんな教育を受けてきたんだ・・・っ。
あの学校への多額の寄付金を今年は考え直さないといけないなっ。
こんなことなら、私がしっかり指導するべきだった・・・っ!」
拓未は失望したかのように嘆いた。
「それでは、星斗クン、真ん中まで進みなさい」
「はい」
星斗は命令に素直に従って、半球体状の小部屋の中央まで足を進める。
中央にくると、拘束する為のロープが天井からぶら下げられている。
「星斗クン、Up 」
拓未がCommandを出す。
星斗は素直に両手を万歳するようにあげた。
拓未は机の上にある手首用の拘束具を取ると、星斗の両手首にその拘束具を付け、それを慣れた手つきで天井から吊り下げられたロープへと接続した。
星斗は両手を上げる格好で、両手の自由を奪われた。
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