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拓未の役目
星斗を乗せた車は、拓未の別宅があるテナントビルへと到着した。
笹ノ間の案内で、エレベーターに乗ると、四階にある『Play Room』へと連れてこられる。
「どうぞ」
先に行くよう、笹ノ間に促され、星斗が『Play Room』の中へと進むと、ガラス張りで作られた半球体状の小部屋を囲むようにして、同年代くらいの若い男女が数十人ほど集まっていた。
「えっ・・・」
何の集まりなんだろう・・・?と、たじろぐ星斗に、「みなさん、お仲間なので安心してください」と、笹ノ間が耳打ちした。
そして、「どうぞ」と、笹ノ間にまた促されて、後をついて歩くと、入り口の裏側、半球体状の小部屋を半周したあたりに若者数人と立ち話をする拓未の姿があった。
「拓未おじ様、失礼します。星斗さんを連れてまいりました」
「おお、ありがとう」
と、笹ノ間に礼を告げると、
「やあ、星斗クン待ってたよー。昨日はお疲れ様〜」
と、拓未は笑顔で出迎え、エスコートするように自然と星斗の背に手を回した。
「あの、お話があるとかで」
「うん、まあ、その前にキミに見てもらいたいものがあってね。もうすぐ始まるから、一緒に見て、その感想を聞かせて欲しいんだ」
拓未はそう言うと、星斗をエスコートしたまま、半球体状の小部屋に向き合うように置かれた二人掛けのソファへと連れて行き、そこに腰を下ろすよう促した。
拓未は星斗の隣に座ると、「ここが今日の特等席だ」と、微笑む。
「雫 ちゃん」と、笹ノ間に向かって声を掛ける拓未。
笹ノ間は星斗を案内した後、ホールに集まる人々にトレイにのせたカクテルを配り歩く給仕係のような真似事をしていた。
「はい、なんでしょう」
呼ばれた笹ノ間はすぐに拓未の元にやってくる。
「ジントニック、ふたつ」
「あの、おじ様。星斗さんにお酒を飲ませても大丈夫なんですか?」
「ええ?」
「勝手に飲ませたりしたら、知未さんをまた怒らせますよ」と、一言付けると、「星斗さん、お酒は大丈夫ですか?」
「あ、はい。あまり強くはないですが」
「分かりました。なら、今すぐ、用意しますね」
笹ノ間はそう言うと、ホールの端にあるバーカウンターに向かって、駐在しているバーテンダーに注文しに向かった。
「よく出来た子だろう」と、感心するようにもらす拓未。
「はい?」
「雫ちゃん。上品で可憐で振る舞いもおしとやかだ。誰が見ても完璧なSubだ」
「はい。とても素敵な方ですね」
「雫ちゃんはね、小さいころからSubの英才教育を徹底的に受けてきた子なんだよ。
可哀相にね・・・。
昔の言い方で言う政略結婚の道具ってやつだよ。
幼いころから許嫁を決められていてね・・・その相手のDomを喜ばせる為に完璧なSubに育て上げられた。
なのに、お相手のDomが結婚前に駆け落ちしちゃってね。
どうせ育ちの悪いSubにでも騙されたんだろう・・・」
「―――――」
星斗は返す言葉を失くした。
『どうせ育ちの悪いSubにでも騙されたんだろう』
その言葉が星斗の胸に妙にグサリと刺さったからだ。
それ、俺のことを遠回しにおっしゃってますか・・・?
「もうじき結婚だっていうときに破談になってね・・・これだけ大事に育てたのに、相手を凌駕するほどのSubの魅力がなかったお前が悪いって、両親をはじめ、親族にまで八つ当たりされてね・・・職もなくして居場所もなくして。
可哀相になってね、だから私のお手伝いをしてもらうことにしたんだよ」
「・・・・・」
『Subの魅力がなかったお前が悪い』
なぜか、また、この言葉だけが星斗の耳にずっしりと残った。
お父様はひょっとして、俺に嫌味を言いたくて、わざわざ呼び出したのかな・・・?
そんな疑いを持ってしまう。
「私はね、体力があるうちに私の後継者を見つけられるだけ見つけようと思ってね。
それで、この春に医者を辞めることにしたんだよ」
「後継者、ですか?」
「ああ、マスターのね。
マスターの力を持って生まれてくるDomは極わずか。
その力を持っていてもきちんと発揮できるとも限らないしね。
それに、マスターに生まれてきた者はある欠点を抱えてしまうんだ。
私もそれにとても悩んだ。
だから、早く見つけてあげて、それをどうしても伝えてあげたくてね」
「・・・・・」
星斗にはある疑問が生まれていた。
「あの、さっきから、どうしてそんな話を俺に?」
星斗は、拓未の濃密すぎる打ち明け話に、どうして、自分なんかに打ち明けるのか?と、いう疑問を持った。
「だって、家族になる子にはきちんと話しておいた方がいいだろう」
「・・・へ?」
星斗は思いがけない言葉に、思わず間抜けな顔で返事してしまう。
「なんだい、知未から聞いていないのかい? 私は昨日、君たちが結婚する前提で話を進めることに賛成したんだよ」
「・・・ええーっ!?」
星斗はワケが分からず驚く。
「今後ともよろしくね、星斗クン」
「いや、あの・・・はい・・・よろしくお願いします・・・」
えっ、どういうこと?!
展開早くない?!
どこから、こんな展開になってたの!?
てか、知未さんから、朝に聞かされた話と全然違うんですけど!?
頭パニックなんですけどーーーっっ!?
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