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拓未の役目②

「・・・ただね」 拓未の声が真剣な声付きに変わった。 「"マスター"の立場としては、どうしてもクリアにしておかなければならないことがあるんだ」 拓未は星斗を真っ直ぐに見つめる。 「キミの性の傾向だよ、星斗クン。 キミのDomに対する依存度の高さは全くもって頂けない」 拓未の表情が厳しくなる。 「キミの依存度の高さはDomの息子を持つ親としては大歓迎だ。 浮気は当然のことだと思うSubが多い中で、キミは浮気することがまずないだろうからね。 息子を裏切るようなことは決してしないだろう。 だがね、いくら愛しているからといって、Domに『殺さ(サブドロップ)れても良い』なんて口にしてしまうのは異常だ。 キミはどんな教育を受けてきたんだね?  どのSub校の出身だい?  場合によってはその学校に"マスター"の立場から苦情を申し出ようと考えているんだが」 「あの、実は俺・・・Normal育ちで。 その、Subの教育を全く受けてきてないんです」 「ええ!?」 「中学生の時に受けた二回目の検査でもNormal判定されて、成人するまでNormalだと思って育ったんです。 自分がSubだって気づいたのは、悪いDom達に襲われたところを知未さんに偶然助けてもらって、それで知未さんからSubだって教えられて。 でも、全然信じなくて、それで仕方なく知未さんが病院まで連れて行ってくれて、そこで検査して初めて分かったんです・・・」 星斗は都合の良いところだけを掻い摘んで話した。 「そうか、それは可哀相に・・・。それじゃあ、自分の性に気づくまで、さぞ辛かっただろう?」 「はい、まあ・・・」 「道理で、知未を相手するには経験が少なすぎるはずだ・・・なるほど・・・。 だから、知未も異常なくらいキミに執着していて、異様に大切に扱おうとするのか・・・。 自分だけが汚したい・・・そういったところか・・・」 拓未が分析するようにそう漏らすと、「お待たせました」と、笹ノ間が酒の入ったグラスを二つ持ってやってきた。 「ありがとう」 拓未がグラスを取り、ひとつを星斗に渡してやる。 「どうだい、雫ちゃんも飲み物を持ってきて、一緒に見ないかい?  雫ちゃんにとったら、とても退屈でつまらないものだろうけど・・・」 「いいえ、私は遠慮しておきます。 今夜はふたりで積もる話もあるでしょうし」 そう言うと、優しい笑みを残して、笹ノ間は二人の前から立ち去った。 「なにか始まるんですか?」 「星斗クンだけじゃないんだよ。経験不足なSubは」 「はあ・・・」 「昨今の性教育をどう思うね?」 拓未はそう言うと、とてもやりきれない、そんな顔を浮かべた。 「Subは小さい頃から自分の身を守りましょうそう教えられる。 Subの高校を卒業するまでは、ほとんどのSub校がPlay自体を禁止とするんだ。 抑制剤を飲ませてね。 それが、この結果だ」 と、ホールにいる数十人の男女を指した。 「全員、Subだよ。成人したPlay未経験の」 「・・・・・」 「そりゃそうなるだろうっ。 18歳になるまでPlayを禁止しておいて、高校を卒業した途端、『まだPlayしてないのか?』と、世間はいきなり、Playしていないことをバカにし始めるんだ。  Playのやり方を実践できちんと教えないで、『まだ抑制剤に頼ってて、恥ずかしい奴め』と、社会は急に手のひらを変える。 18歳になるまでは、童貞や処女でいることが正しいと称賛されたのに、18歳過ぎたら、未経験を冷笑されて、急にマウントを取られるんだ。 そんなことされたら、恥をかくことを恐れて、動けなくなるのは当然だ。 責任を取りたくないばかりに、偉い奴らが規制ばかりを押し付けた結果がこのありさまだ。 Playのやり方が分からない者ばかりが膨れ上がって、喜ぶのは医者と製薬会社だけ。 なのに、規制した奴らは知らん顔で何の責任も取ろうとしない。 みんな困って当然だ。 やり方を知らないんだから。 それを誰も教えないんだから。 雫ちゃんみたいに、みんな、Domの誘い方を熟知出来る教育を受けてるSubばかりじゃないんだよっ」 なんのスイッチが入ったのか、急に熱弁をふるいだした拓未に対し、 意識がぼんやりした中で両手を縛られ吊るされたという、とんでもない目に遭ったにも関わらず、星斗はやはり、拓未という人物が悪い人には思えなかった。 多分、ダイナミクス性者を大切に思うあまり、その熱い熱量と抑えきれないDom性が混じり合って、突拍子もつかない行動を度々起こすのではないだろうか? 所謂、口うるさいお節介なおじさん、なのではないだろうか? そう考えると、 眞門はDom性の影響で、世話好きでお節介な人をとても嫌う傾向があるので、それが原因で、眞門は拓未を嫌ってしまう向きがあるのではないか? と、そんなふうにも理解することが出来た。

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