187 / 311
拓未の役目⑤
「それで、キミは今は平気なんだな?」
「はい・・・一度別れることになってしまいましたが、でも、乗り越えました。
なので、よりを戻してくださいって俺からお願いしたんです」
「それじゃあ、知未は?」
「へ?」
「知未の方はどうなんだ?」
「知未さん・・・?」
「知未の方に後遺症は起こらなかったのか?」
「知未さんに、後遺症・・・?」
拓未が眞門の何を心配しているのか?
星斗には全く分からない。
「昨日のPlayで、どうして、殺さ れても良いなんて、キミは言ったんだ?」
「えーっと・・・」
星斗は昨日のPlayを思い出す。
「確か、知未さんに言われたんです・・・俺以外のDomの言うことを聞いたら、『殺す からな』って・・・だから、俺はあなたになら殺さ れても良いって・・・」
その一言を聞くな否や、拓未は全てが終わりを告げた、そう思わせるほどの悲痛な表情へと変わった。
「・・・あいつがキミに言わせたんだな・・・。
クソっ、あいつ、私に嘘をついたな・・・っ!」
その一言をもらすと、今度は、拓未の表情がみるみる怒りに満ちた顔へと変わっていく。
拓未の異変が何なのかさっぱり分からない星斗は、「・・・あの、何か問題でも・・・?」と、恐る恐る聞いてみる。
と、その時、『Play Room』の扉が勢いよく開いた。
「父さん、どういうつもりですかっ! もう、いい加減にしてくださいっ!!」
と、眞門が怒鳴り声をあげて入って来た。
眞門はソファで話す星斗と拓未を見つけるや否や、怒り心頭といった表情で近づいてくる。
「また、星斗を勝手に連れ出すなんてっ、本当に弁護士を立てて訴えますよっ!」
眞門がそこまで言うと、拓未はさっと立ち上がって、星斗を背に隠すようにして、眞門の前に立ちふさがった。
「この結婚は絶対に許さん!!」
拓未は眞門に向かって、いきなり怒鳴りつける。
「!」
さっきとはまた違うことを言い出した拓未に、「本当に先の読めない人だ」と思い、星斗はただ呆気にとられる。
「なんなんですか、急に?」
「お前、私に嘘をついただろう?」
「・・・・・」
「お前、Sub drop 症候群を発症しているんじゃないだろうな?」
「・・・・・」
「星斗クンのことをSub drop させたくて、させたくて、その欲望に憑りつかれて、仕方なくてよりを戻したんじゃないだろうなっ!」
拓未の怒鳴り声はホール全体に響き渡った。
勿論、カウンターバーにいた笹ノ間にも、その声は聞こえた。
「・・・・・」
眞門は黙り込んで、何も答えようとしない。
眞門の様子をおかしく思った星斗は、
「・・・知未さん?」
と、心配になって、声を掛ける。
「・・・そんな訳ないじゃないですか。帰ろう、星斗」
「ダメだっ! きちんと納得できる答えを聞かない限り、星斗クンは絶対に渡さないっ!」
拓未は毅然として、眞門の行く手を立ち塞ぐ。
「どうした、なぜ、すぐにきちんと否定しないんだ?」
「・・・・・」
「どれだけ重大なことか、お前も分かっているだろう?」
「・・・・・」
「まさか、本当にそうなのか?」
「・・・・・」
「残念だ・・・まさか、罰をお前に与えるなんて、息子をSubに調教しなければならない日が来るなんて・・・考えもしてなかったよ・・・」
そう言うと拓未は悔しそうに、瞳に涙をいっぱいに溜めた。
ともだちにシェアしよう!