188 / 311

絶望の選択肢

星斗は現状が飲み込めず、ただ呆然としていた。 ・・・罰として、知未さんがSubに調教されるってどういう事・・・? 「・・・あの、どういう」 星斗が拓未に尋ねようとしたところに、「雫ちゃんっ」と、拓未がバーカウンターにいる笹ノ間を呼び寄せる。 「はいっ、なんでしょう」 笹ノ間は食器の片付けを後回しにして、すぐに拓未の元に駆け寄る。 「星斗クンを今すぐ私の部屋に連れて行ってくれ」 「!?」 星斗は一体、何事かと驚く。 今、眞門と拓未の間で何が起きているのか、さっぱり理解出来ないからだ。 「分かりました・・・。行きましょう、星斗さん」 「いや、でも・・・」 笹ノ間は星斗の腕を掴む。 「さあ」 「・・・待ってくださいっ!」 星斗は笹ノ間の掴んだ手を払いのけた。 「一体、どういう事なんですか?  知未さんがSubに調教されるってどういう事なんですか!」 星斗は誰でもいいから説明してくれ!と、訴えるように叫んだ。 「・・・・・」 しかし、誰も口にしたくないのか、一様に黙り込む。 「・・・ねえ、知未さんっ、どういうことなんですかっ、教えてくださいよっ!」 星斗は眞門を見つめた。 「・・・Sub dropが起きてしまうと、Subだけじゃなく、Domの方にも問題を引き起こすことが稀にあるんだ・・・」 眞門は星斗を見つめ返すと、悲しい顔を浮かべて、説明を始めた。 「Playをする上でSub dropを絶対に起こしてはいけない。 それはSubの心が壊れてしまったり、最悪、死ぬ可能性があるから、そう言われている。 けど、Dom側にも深刻な問題を起こす場合があるから、きつくそう言われてるんだ。 それが・・・Sub dropの禁断症状」 「Sub dropの禁断症状?」 「DomがSub dropを経験してしまうと、SubをSub dropさせたく、させたくて、たまらなくなるんだ」 「えっ・・・」 星斗は何も知らなかったので言葉を失う。 「星斗クン」 拓未が横から口を挟んでくる。 「本来、Domはね、Subが要求する欲望を受け止めてあげて、それをうまく昇華してあげることに歓びを感じる生き物なんだよ。 自分の導きでSubが悦びに震えた顔をする。 Subは喜んで、また、こういう悦びをあなたに与えて欲しいと強請る。 そして、また、その悦びを自分が与えてやる。 これがDomの本来の性癖なんだ。 だがね、そんなSubが求める性の欲求を一切無視して、自分の欲望だけを満たそうとする不届き者のDomがいる。 これがまさしくSub dropを起こす要因のひとつだ。 だから、そういう悪いDomがいると見つけては、調教部屋に監禁して、Subに性転換させる。 それがマスターの古くから仕事のひとつなんだよ」 「そんな・・・」 「Domが自分の快楽だけをSubに押し付けて、SubがSub dropしてしまうと、Domの脳は勘違いを起こしてしまう。 自分の導きで、Subが最も高みで昇天出来たってね。 これが正しいPlayなんだって。 その快楽はDomにとって、言い知れぬほどの快感をもたらすと言われている。 一度、経験すると忘れられない快楽だと」 「・・・じゃあ、知未さんは・・・それを発症してるかもしれない・・・?」 「どうなんだ、知未。 今、こうしている間も、星斗クンをSub dropさせたくて、させたくて、うずうずしているのか?」 「・・・・・」 「知未さん・・・」 「ちゃんと答えなさい!」 「・・・分からないっ」 眞門は声を大にした。 「分からない・・・っ、分からないんです!」 眞門は正直に答えた。 「本当に分からない・・・今、言えることは、発症してるかもしれないし・・・してないかもしれない・・・」 眞門は拓未を見つめた。

ともだちにシェアしよう!