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やり直しはいらない

結局、拓未からの解決策を眞門が固辞したため、今後どうするか、の結論は先送りとなった。 眞門にSub dropの禁断症状が現れているかどうかも不明なため、もう少し様子を見守るということで、とりあえず、今夜の話し合いに一旦、幕を下ろした。 しかし、このまま、星斗と眞門が同棲生活を続けることには拓未が猛反対したため、あっけなく、ふたりの同棲生活は突如終わりを迎えることになった。 星斗の母親、加奈子からの言いつけがある以上、実家には戻ることを許されない星斗は、帰る場所を失くしてしまった為に、拓未が星斗を引き取る事にした。 拓未の別宅で当分の間、暮らすことになった星斗。 「一杯やらないかい?」 拓未にそう誘われて、星斗は拓未の部屋のリビングにあるソファに腰を下ろした。 「私の顔なんて、見たくないだろうがね」 ブランデーが入ったグラスを渡されながら、拓未にそう声をかけられた星斗は「どうしてですか?」と、尋ねる。 「愛人を作れだなんて酷い提案したからだよ。 Normalの人が聞いたら、誰だって怒る。 星斗クンはNormal育ちだから、腹が立ったんじゃないか。 知未の母親だった知世さんも私が愛人を作ることが全然理解出来なくてね、それは大変怒ったよ。 でも、そうしなきゃ私たちは夫婦を持続することが出来なくてね・・・けど、知未はそれをずっと憎んでいたんだな・・・同じDomなら、いつかは分かってくれるものと思っていたが」 拓未は誰に対してなのか、とても申し訳なさそうな顔を浮かべる。 「可哀想なことをした。本当に酷い父親だ・・・」 拓未はそう漏らすと、酒を一口、口に運んだ。 やっぱり、知未さんのお父さんだな。 Domなのに、素直に反省するところがとても似ている。 この人が現れてから、俺、酷い目にしか遭っていないのに・・・。 なんで、俺は、この人のことが嫌いになれないんだろう。 拓未は、真剣な眼差しで星斗を見つめた。 そして、「星斗クン、これはマスターとしての助言だ」と、切り出す。 「キミはまだ若い。 知未への依存から抜け出すにはかなりの時間がかかると思うが、まだやり直しは利くはずだ。 どうだい、知未のことは諦めて、一からやり直す気はないかい?」 「・・・・・」 「キミとの結婚を反対して、こんなことを言っているわけじゃないんだ。 さっきも言ったけど、親としてはキミとの結婚は大賛成だ。 けどね、マスターの立場から言わせてもらうと、キミは知未に見切りをつた方が良い」 「・・・・・」 「もし、キミがその考えになったら、私が他のDomからも悦びをきちんと与えられるように私の命がある限り、責任をもって指導させてもらう」 「・・・・・」 星斗は考える。 拓未に悪意は感じない。 本当に親身になってアドバイスしてくれているのだろう。 じゃあ、自分も本当にどうしたいのか? きちんと拓未の意見に向き合わなければ。 自分の内から出てくる答えに耳を傾けてみる。 「・・・あの」 「なんだい?」 「俺がやり直す意味ってなんでしょう?」 「へ?」 「俺はやり直してまで、生きなきゃダメなんでしょうか?」 「・・・・・」 「希望がない人生でも、人生をやり直さなきゃいけないんでしょうか」 「星斗クン・・・」 拓未は同情を寄せる、そんな顔をした。 「希望があるから、人生ってやり直せるんじゃないでしょうか」 「ダメだよ、星斗クン。そんなこと言っては。それでも生きる。それが人生だ」 拓未は諭すように口にする。 「じゃあ、尚更、このままでいいです。 生きなきゃいけない。 それが答えなら、俺は時間が短くなっても、希望がある方を選びます。 希望がない人生はニート経験で、もう、うんざりしたんです。 希望がない生き方をしてた俺の前に、知未さんが現れてくれた。 俺はそれで全てが変わった。 それを失いたくはない」 星斗は言葉を終えると、何の迷いもない、そんな顔で微笑んで見せた。 拓未は「ハアー」と、重いため息をついて、困ったように顔を何度も左右に振った。 そして、星斗が待つこれからの人生を憐れんでやることしか出来なかった。

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