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嵐を呼ぶ男

「なんなんだ、これは・・・? なんで、俺に連絡をすぐに寄こしてこなかったんだ?」 星斗の弟でDom性の明生が両腕を胸の前で組むと、ソファにふんぞり返るような高圧的な恰好で、星斗を叱るように言い放った。 「えっとね・・・」 星斗は兄のくせに、恐縮して体を小さくさせる。 拓未への挨拶に伺う際、明生に実家に置いてあったスーツを届けたもらったことがあった。 その事実を母の加奈子も勿論、把握していて、拓未への挨拶を終わらせたことも既に知っている。 なのに、眞門からも星斗からも、以後の連絡が何もないことを加奈子は不信に思った。 しかし、自分が口にしてしまった建前がある以上、星斗の心配をしているとは言えない加奈子は、星斗の様子がどうなっているのかを見てきて欲しいと明生に頼んだのだった。 「・・・だって、明生はこの春から学校が変わって、何かと大変だろう?  新しい環境でやっていくっていうのはさ・・・」 「・・・・・」 明生は高圧的な表情を一切変えず、星斗をただじっと見つめる。 「だから? それで? お前は何が言いたいの?」 明生はそんな言葉を顔だけで体現する。 「・・・すぐに連絡しなくて、すみませんでした」 明生の圧力に負けて、星斗はすぐに謝る。 明生の圧は知未さんとまた違った圧なんだよ・・・。 Sub性を痛めつけてくるような明生の圧を、星斗は心の中で嘆いた。 明生にどんな心境の変化があったのか、去年の終わりに、母の加奈子にDomであることを打ち明けると、Dom校へ転校することも希望した。 そして、この春から、Dom校の生徒となり、新しい環境での生活を始めていた。 「で、何があったら、交際の許しをもらえていないカレシの父親と同居することになるんだ?」 明生は新しく通い始めた学校の制服姿のままで、下校途中に、拓未の別宅へと立ち寄っていた。 「それはね、色々とあってさ・・・」 「・・・・・」 明生がまた、高圧的な目つきで星斗をただ、じっと見つめる。 「だから、その、色々を早く答えろって、さっきから言ってんだろう?」 明生の瞳が、そんなプレッシャーをかけてくる。 圧が・・・。 圧が強すぎるって・・・。 知未さんの前に、明生にサブドロさせられる(殺される)・・・。 「兄貴、答えるつもりがないなら、Command使うぞ」 「でも、それしたら、近親相姦になるんじゃない?」 「・・・・・」 また、明生が無言の圧を掛けてくる。 「なんだ、そのつまんない冗談は。マジで犯すぞ、コラ」 まるで、そんなプレッシャーだ。 星斗は思わず脂汗をかいた。 明生、転校してから、すこぶる機嫌が悪いんだよ・・・。 やっぱり、新しい環境になれなくて、ストレスが相当溜まっているんだろうな・・・。 星斗は明生をこれ以上、怒らせてはいけないと思い、嫌々ながらも、眞門と離れて暮らすことになった事情を説明しようとした。 と、そこに、拓未が突然、リビングへと現れる。 「いやぁー、お友達が来てたのかな。楽しんでいるところ、邪魔してすまないねー。少し喉が渇いてしまってね・・・」と、断りを入れながら、キッチンへと向かう拓未。 星斗はソファからサッと立ち上がると、「あの、お父様、紹介が遅れてすみません。彼は俺の弟で、明生と言います。 お父様はあのあちらの部屋(調教部屋)でお仕事中だったので、声を掛けるのも気が引けまして」 と、明生を拓未に紹介する。 明生も同じように立ち上がると、 「明生です。どういうわけか、兄がお世話になっているようで」 と、Domらしく、へつらうことのない挨拶をする。 「やあ、よろしく・・・」と、拓未は明生の制服姿を見るや否や、「!」と、とても嬉しそうな顔を見せた。 「いやー、キミ、その制服。今時珍しい、詰襟の紺の制服。Dom校の朝陽学園の生徒かい?」 「はい」 「へぇー、星斗クンの弟さんはDom性だったのか・・・いやいや、よろしく」 と、なぜか、拓未は明生に握手を求めた。 「あ、はい、よろしくお願いします」 拓未のいきなりの積極的な態度に困惑する明生。

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