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嵐を呼ぶ男②
「あそこの理事長とは古くからの知り合いでね。
今時、珍しい卒業パーティーを催してる、とても良い学校だよ。
卒業パーティーには、Subを同伴させないといけないっていうルールがあるんだよ。
知ってたかな?
それで、キミはどんなタイプ が好みなのかな?」
そう言うと、拓未はいきなり、瞳を黄金色に輝かせて、明生に向かってGlareを発動した。
「!」
星斗はあまりの突然の出来事に驚く。
確かに、知未さんが言ってた通り、お父様の言動は時々ヤバイな・・・。
一緒に暮らすと、失礼極まりないって、知未さんが怒るのも少し分かってくるな。
てか、明生、ごめん。
弟を守れない兄を許してくれ。
恋人のお父様に嫌われたくないばっかりに、弟を簡単に差し出す兄を許してくれっ。
星斗は心の中で明生に謝罪を述べた。
「あの、なんですか? さっきから・・・」
「!?」
えっ、明生、平気なのか!?
「気持ち悪いんですけど? てか、いきなり、失礼じゃありませんか?」
明生は隠すことなく、気味が悪いジジイだ、そんな顔を浮かべている。
拓未はめげることなく、もう一度、瞳の色を黄金色に輝かせると、「キミの名前を答えなさい」と、違った質問に変える。
「いや、それ、さっき伝えたでしょう?
だから、なんなんですかっ、さっきから!
おじさんに見つめらて喜ぶ趣味なんて俺はないんですけどっ!」
と、明生は、明らかに反発するように答える。
「・・・キミ!」
拓未は明生をいきなり抱きしめた。
「なんですか、気持ち悪いなーっ!」
「見つけたよ、見つけたよ、私の後継者っ! やっと、ひとり見つけたっ」
拓未は尋常じゃないくらいの喜びを見せている。
・・・へ?
今、お父様、なんて言いました・・・?
拓未の言動に星斗は「まさか・・・?」と、絶句する。
「キミ、Glareを見せてみなさい」と、拓未。
「はあ? なんで?」
明生は拓未に対し、全くへりくだる様子がない。
「いいから、見せてくれないか」
「いやです」
明生が本当に"マスター"であるかどうか確かめたい星斗も横から口を挟む。
「明生、頼むよっ。お父様に見せてあげて」
「無理」
「え?」
「だって、俺、まだ習得してないもん」
「あっ、そうなんだ・・・」と、星斗は漏らすと、拓未に向かって、「お父様、あの、明生も去年に自分がDom性だと言うことが分かりまして。それまでは、俺と同じNormal性育ちなんです」
「そうなのか・・・。
なら、ますます都合が良い。
余計な知識がない方が教えるにはスムーズだ。
キミ、今日から私の弟子になりなさい」
「・・・は? おじさん、頭イカれてんの?」
「コラっ、明生っ、言葉遣いっ! 仮にも俺の大切な恋人のお父様っ!!」
明生に向かって、いい時だけ、兄と言う立場を利用する悪賢い星斗。
「チッ」と、明生は面倒くさいとばかりに舌打ちすると、「おじさん、頭イカれてるんじゃありませんか?」と、言い直した。
「それ、全然、直してないから・・・っっ」と、星斗は頭を抱えた。
「・・・構わない、構わない、構わないっ。
Domはそれぐらいで丁度いい」
星斗の心配をよそに、拓未は明生の言葉遣いなど全く気にしていない様子だ。
「明生クンというんだね。明生クン、キミは間違いなく"マスター"だ」
「は?」
マスターの存在を知らない明生は意味不明な顔を浮かべる。
傍で聞いていた星斗は、
・・・やっぱり。
でも、本当にそれ信じて良いのかな?
本当なら、とてつもなくイヤな予感がするんだけど・・・。
と、なぜか、言い知れぬ不安に襲われる。
「私のGlareが全く通用しないのは、限られたNormalか"マスター"のDomだけだ」
「なにそれ?」と、全く興味を示さない明生。
横から、不安いっぱいの星斗がまた口を挟む。
「お父様、本当に、本当に、間違いなく、あの、本当に明生はマスターなんですか?」
「ああ、間違いない。しかも、かなりの強者だ。一瞬たりとも私から目を逸らさずに睨み返してきて、この反応だ。先が楽しみな逸材だ」
「なあ、兄貴、さっきから何言ってんだ、この人。
本当に頭大丈夫なのか?
・・・あ、あれか!?
この人がこんな状態だから、この人の面倒を見るために、兄貴はここで暮らすことになったのか?
なんだよ、世話を押し付けられたのか!?
おい、今すぐ、眞門呼び出せ。
俺があいつにグーパン何発か入れてやるからっ。
で、今すぐ、実家に帰ってこい。
おふくろには俺が話をつけてやるから。
おふくろだって、本当は心配してるんだし。
頭のおかしい父親の面倒を押し付けられて困ってるって言ってさ」
「頼むよ、明生。頼むから、これ以上、話を複雑にしないで!」
星斗はさらに混沌となりそうなのを恐れた。
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