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束の間
深夜。
「・・・はっ!? 今、なんて言った・・・!?」
眞門がかなり驚いた声でスマホに向かって聞き直す。
電話で会話することのみ(※ビデオ通話はGlareの使用があるといけないので禁止)拓未から許可されている星斗と眞門は、眞門が就寝するまでの間、束の間の会話を楽しんでいた。
明生がマスターであることが判明したこと、拓未に説得されて、嫌々ながらも弟子入りしたこと、そして、あっという間にGlareの使い方を習得してしまったことを星斗は眞門に伝えた。
「・・・嘘でしょう? 身内にふたりもマスターなんかいらないって・・・」
眞門は酷く打ちひしがれた声を出した。
「フフフ」
しかし、星斗はそれに反するようになぜか笑った。
「なんで、笑うの?」
「だって、今、身内って言ったから。
知未さん、俺と別れることを考えていないんだなって思ったら嬉しくなった」
「・・・・・」
眞門は胸が締め付けられた。
星斗に内緒で、笹ノ間と愛人関係を結ぶ手はずを進めているからだ。
眞門はそれを正直に伝えようかどうか悩む。
「・・・なあ、星斗。
本当に俺とこの先も一緒に前に進むつもりか?
前は俺も気が動転してて、きちんと考えられなかったけど、落ち着いた今なら言ってあげられる。
星斗は新しく、別の道に進んだ方が良い。
俺は全然それで構わないから。
なんだったら、父さんに頼んで、俺以外のDomと・・・その・・・」
「それなら、もう断りましたよ」
「え?」
「お父様にも提案されましたけど、断りました」
「・・・・・」
健気な星斗に、今度は、眞門の胸が張り裂けそうになった。
「・・・じゃあ、俺は愛人を作るしかないな・・・」
ずるい言い方をした。
眞門自身、そう思った。
けど、気づいていた時には、そう口にしていた。
こんな土壇場になっても星斗に嫌われたくない、それが勝ってしまう。
星斗がそれを選んだんだ。
まるで、そんな押し付ける言い方。
星斗を試すような言い方。
眞門は恥じたが、どうしても星斗に嫌われたくない。
それがこんな時でも勝ってしまう。
「はい」
星斗はそんなことはどうってことない、そんな感じで明るく返事した。
「・・・星斗は強いな。星斗が羨ましい。Subが羨ましいよ」
眞門は、やっぱり自分は情けないDomだと声を落とす。
「強くはないですよ。迷いがないってだけです。知未さんから離れない。もう、そう決めてますから。だから、何にも考える必要がないだけです」
「そっか・・・じゃあ、俺も何も考えないようにしなきゃね。
星斗の側にいるにはどうすれば良いか、それだけを考えることにするよ」
眞門は、これから自分がどれだけ酷いことをしようとしているか、それが分かっていてもやらないと。
そう心に誓う。
「・・・それよりも先に解決しないといけない問題が出てきまして」
と、神妙な星斗。
「なに?」
「明生のことです。
多分、明生が近々、知未さんのところに乗り込んでいくと思います」
「そっか・・・明生クン、お兄さん想いだからね。
明生クンに俺たちのことがバレたんだね?」
「はい、そうみたいなんです。
俺は話すつもりなかったんですけど、笹ノ間さんが・・・。
勿論、笹ノ間さんも話すつもりはなかったと思うんです。
けど、笹ノ間さんが明生のGlareの練習台にされてしまって。
明生が、笹ノ間さんを練習に付き合わせることが、弟子入りする条件だって絶対に譲らなくて。
それで、仕方なく、笹ノ間さんは明生に色んなことをされてるみたいです」
「そうか、雫ちゃんも大変な目に遭ってんだ」
「はい。どうも、明生が弟子入りしたのには、他にも違う目的あるみたいで・・・」
「違う目的・・・?」
「多分、笹ノ間さんにお仕置きと言う名の復讐、みたいな?」
「なにそれ・・・?」
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