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明生と笹ノ間

深夜。 拓未の別宅がある 『MA-MON 第四テナントビル』の四階、――Play Room――から、なんとも艶かしい声が響き渡っていた。 「ああ・・・っ、ああっ、あはぁぁぁ~んっっっ」 笹ノ間の甘い喘ぎが響き渡る。 「笹ノ間、ひょっとして、気持ち良いのか・・・?」 明生がニヤつきながら、問いかける。 ガラス張りの半球体状の小部屋の中の"X"の磔台に笹ノ間は拘束されていた。 シャツの前ボタンを全て外された状態の、肌を露出した格好で、笹ノ間は手と足の自由を奪われて磔にされている。 「お前さ、俺のことが下手だって、最後に言い残して去っていったよな」 そう口にした明生の両手には、ふわふわの羽の付いたくすぐり棒。 「あれがショックでさ、だから、Dom校に行こうと思ったの。 Dom校で色々学ぼうって。 ホント、行ってて良かったわ。 まさか、師匠から性的Playを禁止されると思ってなかったから」 明生が提示した、笹ノ間を練習台にするという条件を受け入れた拓未だったが、性的な行為を含むPlayについては、明生が高校を卒業するまでは絶対禁止という条件を付け加えた。 「Dom校に行って教えてもらったんだよ。 性的なPlayが禁止されている場合は、こうやって、敏感に生まれてきているSubの体をくすぐって、Playを楽しむんだって」 そう言うと、明生は両手に持つくすぐり棒で、晒されている笹ノ間の両乳首をさらさらと撫でる。 「あああぁぁぁーーーんっ、ああーん、あん・・・っ」 笹ノ間は乳首を撫でるられる度、艶っぽい声を溢れさせる。 「けど、笹ノ間にはこれは辛いよな。だって、お前、乳首でイケちゃうもんな」 そう言うと、明生は笹ノ間の乳首を羽で優しくクリクリと撫でまわす。 「ああぁぁぁーっっ・・・ンっっっ・・・!」 笹ノ間から艶っぽい声が途切れることはない。 乳首から、明生の持つくすぐり棒が離れると、笹ノ間はぐったりとする。 「なあ、俺、そんなに下手だったか?  お前、あの誰もいない教室で、俺にかまってもらいたくて、俺が来るのをずっと待ってただろう? 下手だったら、待ってないだろう?」 「・・・違います」 「何が?」 「パートナーに別れを言うときは、相手を酷く傷つけるのが鉄則です」 「どうして?」 「思いを引きずらない為です。 ・・・でも、あなたにはその心配はいりませんでしたね」 笹ノ間は明生は見つめた。 「あなたはSubを好きにならない」 「へ?」 「あなたになんか、出会いたくなかった・・・」 「お前、それ、酷くない?」 明生は、また、笹ノ間の乳首をくすぐり棒の羽で虐めた。 「はぁぁぁ~~ん、あああぁぁンっ」 「・・・なあ、いい加減話せって。 その為のお仕置きPlayなんだから。 事情は分かったけど、どうして、そんなに俺の兄貴のカレシの愛人なんかになりたいんだ?」 「・・・あなたには関係ありません」 明生の手が止まった。 「・・・なあ、雫。 お前、見た目がどれだけ変わっても、その、寂しい雰囲気だけは全く変わってないな」 「・・・・・」 「お前、そんなんで愛人なんかやっていけるのか?  俺はお前が結婚するために学校を辞めていったことは、本当は嬉しかったんだぞ。 誰かに寄り添ってもらいながら、雫は生きていけるんだなって思って」 「・・・・・」 「俺はお前がまた寂しいオーラを背負いながら生きていくのかと思うと、そっちが心配だ」 「・・・・・」 明生の思いやりのある言葉に、笹ノ間は涙が溢れそうになるのを堪えた。 「・・・私はずっと勘違いしてた。 あなたが私を好きになったんじゃないかと。 私にとても優しくしてくれるから。 でも、そうじゃなかった・・・」 「何の話だ?」 「明生さんはマスターだった。 ただ、それだけのことだったのに。 私は本当にツイてない・・・。 生まれてきた場所も生まれてきた時代も生まれてきた性別さえも。 なんで、こんな辛いことばかり・・・私は生まれてくるんじゃなかった・・・」 「そんなこと悲しいこと言うな。 俺が力になってやるから」 「じゃあ、私に居場所を与えてください」 「・・・・・」 「でも、明生さんにはそれは無理です。 明生さんは私を一生、必要としないから。 それが、マスターの唯一の欠点だから」 「・・・・・」 明生は笹ノ間が何を言いたいのかさっぱり分からなかった。 「・・・もう、私を解放してください」 「・・・・・」 笹ノ間は明生を強い眼差しで見つめた。 「今夜はこれで終わりにしましょう」

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