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"マスター"の弟
「ふたりきりで話がしたい」
突如、明生からそう言われて、星斗は呼び出された。
稽古中を抜け出して、拓未の別宅があるビルの屋上で待つ明生の元に、星斗はやってくる。
「なに? 話したいことって」
「単刀直入に聞くぞ。
兄貴は本当に眞門の奴に愛人なんか作らせていいんだな」
「なんだよ、いきなり・・・」
「正直に言え。
本当に愛人なんか作らせて平気なんだな?」
「平気も何も、それしか方法がないんだよ」
「誰もそんなこと聞いてねえよ。
いやなのか、そうじゃないのかを聞いてんだ」
「だから、そういう問題じゃないんだって、俺たちには複雑な・・・っ」
「そういう問題だっ!」
明生は一喝した。
「なあ、兄貴。
兄貴は後、何年生きるつもりだ?
死ぬまで、後、何年生きると思う?
その間、眞門にはずーっと愛人がいるんだぞ」
「・・・・・」
「愛人の家に寄ってきたその日か、次の日か、また次の日か知らないけど、その後に兄貴は眞門とPlayするんだぞ。
それが何年も続くんだぞ。
それがどれだけ悲しいことなのか、分かってんのか?」
「・・・・・」
「その覚悟が本当に出来ているんだな?」
明生は星斗を真剣な眼差しで見つめた。
「・・・だって、仕方ないじゃないかっ。仕方ないだろうっ」
「誰もそんなこと聞いてねえよっ。
イヤなのか、イヤじゃないのか、それだけを聞いてんだ。
弟の俺ぐらいには、正直に答えろよっ」
「イヤだよっ、イヤに決まってるだろう、そんなのっ!
あの人の、俺しか見ないって顔を誰かに見せるなんて!!」
星斗は溢れそうになる涙を堪えながら、叫んだ。
「・・・でも、仕方ないだろうっ、俺はあの人を守るって決めたんだ!
Subの俺が知未さんにしてあげられることは、傷つけられることに耐えられるってことぐらいなんだよっ!
それぐらいしかしてあげられないんだよっ。
俺は何があっても、あの人を守る。
Subなんだから、傷つくのなんか全然平気だ」
「そうか、よく分かった。
・・・じゃあ、兄貴、俺の瞳を見ろ」
「えっ・・・」
「Look 」
明生がCommandを発動させると、明生の瞳が鮮やかなコバルトブルーへと変わった。
なんだこれ・・・!?
星斗がそう思った瞬間、とても温かいオーラのようなものに包み込まれた気がした。
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