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父と息子

眞門は自分のすべき事が決まると、その後の行動はとても早かった。 直属の部下に、理由は詳しく伝えないままで長期休暇を取ることを伝えた。 そして、もし、自分から何の音沙汰もなくなるようなことがあったら、母親へではなく、父親を頼って欲しいという言葉と共に拓未の連絡先を残しておいた。 眞門は、社長として済ませておかなければならない全ての業務を終わらせると、拓未の別宅へと向かった。 拓未の別宅があるテナントビルの駐車場に車を止めると、丁度、隣に、笹ノ間が運転する車も止まった。 眞門は車から降りると、同じように車から降りてきた笹ノ間に「やあ」と、声を掛けた。 「雫ちゃん、あの件を結局ダメにしてごめんね」 「いいえ、こちらこそ。 私が明生さんに余計なことを話したばかりに」 「ううん。これで良かったんだよ、これで。 俺はやるべき事が分かってすっきりしてる。 今、父さんに星斗とPlayをする許可をもらいにきたんだ」 「そうですか、おふたりが幸せになる結末になるとよろしいですね」 「雫ちゃん」 「はい」 「良いパートナーを持ったね」 「へ?」 「年下だけど、とても頼り甲斐がある人で羨ましいよ。 明生クンは雫ちゃんのことが大好きみたいだよ。 俺の愛人なんかにしたくなかったみたい」 「?」 笹ノ間はとても怪訝な顔をする。 「・・・あの、知未さん。 どうしてそう思われるんですか?」 「へ?」 「明生さんは私のことを絶対に好きにはなりませんよ」 「・・・え、どうして?」 「だって、マスターですから」 「?」 眞門は呆けた顔をする。 「ひょっとして、知未さん、ご存知ないんですか?  マスターの欠点を」 「欠点?」 「マスターはSubに恋愛感情を持てないんですよ」 「・・・へ?」 「マスターはSubに対して、友愛の感情しか持てないんです。 だから、Subに対して、幅広く優しい心になれて、何人もの相手とPlayする事が可能になるんですよ。 マスターが恋愛感情を持てるのは、Normal性、しかもGlareが通用しないNormal性を持つ方だけです」 「・・・嘘だよ、俺、そんなの聞いたことない」 「本当ですよ。 Sub校では上の世代から代々、下の世代へと語り継がれる有名な話です。 とても魅力的なDomに出会ったら、気を付けろ。 それは"マスター"の可能性が高い。 "マスター"に出会ったら最後、Subは永遠の片思いをすることになる。 だから、抗うことのできないDomに出会ったら、まずは逃げ出せ。 それが幸せの近道だからって」 「嘘だよ・・・、そんなの迷信か都市伝説に決まってるっ、じゃあ、父さんは本当に母さんを愛してたっていうのか・・・?  じゃあ、どうして、Normal相手にあんな酷い真似ができ・・・!」 眞門はハッと気づく。 「・・・母さんが望んだのか・・・?」 そして、それと同時に思い出したのは、星斗が以前、Playの際に口にした言葉と自分を愛しいという瞳で見つめてくれた顔。 『どうぞ、あなたの好きにしてください。 俺を好きなだけ殺し(サブドロップ)てくださいっ。 あなたを失うぐらいなら、俺はあなたを思う中であなたに殺されたいっ』 その後、眞門は狂ったように星斗を抱いた。 その際の自分の狂気と父と母のPlayを目撃したあの夜の父の非情な顔が重なる。 ・・・母さんも父さんを愛していて、母さんが自ら、父さんとのPlayを望んだって言うのか? Domの父さんから酷い目に遭うと分かってて・・・。 父さんが無理強いしたわけじゃなく、純粋に愛を確かめたかった・・・? 眞門の中で、まさかの答えに行き着いた。

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