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父と息子②
眞門は四階にある『Play Room』へとやってきた。
明生が独断で、星斗と眞門にした事を聞かされた拓未がカウンターバーでやけ酒を飲んでいると、笹ノ間に聞かされたからだ。
眞門は「父さん」と、ブランデーを呷る拓未に声を掛ける。
「陽が沈む前から酒を飲むなんて、珍しいですね」
「酒でも飲まんとやってなれないからな。
まさか、やっと見つけた"マスター"に息子を殺されることになるなんてな」
「まだ、発症したとは限りませんよ」
その言葉に拓未はふて腐れた顔をみせる。
「その様子だと、俺がここに来た理由が分かってますよね?」
「ああ。
Playするなら場所はここだ、あの部屋の中で、だ」
拓未はいじけたようにガラス張りの小部屋を指さした。
「俺達に監視されながらだ。それが嫌なら絶対に認めん」
「分かりました。なら、星斗に何があっても安心です」
「全くっ、スカウトしたら、とんでもない弟子だった。
雫ちゃんをおもちゃにするわ、平気でサボるわ、やりたい放題だ。
しかも、私に内緒で勝手に進めて、最後には私に説教までするなんて!
息子を救う方法はこれしかないですって」
「彼はああ見えて、とても思いやりのあるDomですから。
大物になりますよ。
存分に鍛えてあげてください」
「なんだ、その遺言でも残すような言い方は・・・っ」
拓未は、明生の案をまだ受け入れずにいるのに、眞門のどこかスッキリとした顔を見ていると、途端に、何も言えなくなってしまった。
「・・・知世さんには会って来たのか」
「いいえ。
余計な心配かけたくなかったので。
母さんは勘が鋭いので。
もし、俺に何かあった時はお願いしますね」
拓未は眞門の決心が固いことを悟る。
「怖くないのか?」
「父さんはどうでした?」
「何が?」
「母さんとPlayした時。怖くなかったんですか?」
「どうして、そんなことを聞くんだ?」
「教えてくださいよ。最後になるかもしれないんですから」
「・・・・・」
釈然としないが、息子の最後の頼みになるかもしれないと思い、拓未は素直に打ち明ける。
「・・・怖かったよ。これで、私たちは終わると思ったからね。でも、知世さんの気持ちを考えると・・・」
「やっぱり、母さんが望んだことだったんですね?」
「いや、私も望んだ。
もう、私たちは壊れる寸前だった。
知世さんは耐えられなかったんだよ。
私を愛してくれてるからこそ耐えられなかった。
当り前だ。
Normalの人には私たちのことなど理解できるはずもない。
どうせ壊れるなら、最後に知世さんとPlayしたかった。
私の中で最初で最後、愛の知るPlayだ。
知世さんの悲鳴が今でも耳に残ってる。
本当に酷いことをしたと今でも反省している。
けど、私にとっては、人生で最も興奮出来た思い出だ。
知世さんに出会えなければ、一生、愛のある Playがどんなものか知ることもなかっただろう」
「・・・俺はそれをたまたま覗いてしまって、今までずっと勘違いしてたのか・・・」
それが分かると、眞門は今までの言動を悔いた。
「父さん、今までずっと辛く当たってすみませんでした。
俺は父さんが私欲のために、母さんに無理やり強要したんだとずっと思ってました・・・」
「止めてくれっ、そんな最後の言葉を言い残すみたいなのはっ!
まだ発症してるかどうか分からないだろうっ」
「ええ、そうですね。
けど、俺は父さんと母さんの子供に生まれてきて、今、初めて良かったって思えました」
眞門はやっと心の底から微笑むと事が出来た。
そんな感覚だった。
そして、思う。
今まで自分がこだわっていたことは何なんだったのか、と。
ただ、父親のようなDomにはなりたくない。
我を忘れるような無様なDomにはなりたくない。
そうなることを頑なに拒否した。
けど、想いは同じだった。
人は恋をしたら、どんなに優れた人でも無様になってしまうのかもしれない。
自分は星斗の良いご主人様になりたくて必死で頑張ってきたつもりだったが、結局、無様な形で終わってしまったのは、星斗に恋をした段階で仕方なかったのかもしれない。
そう思うと、無性に星斗が恋しくなった。
星斗に出会えてなかったら、この気持ちに気づけただろうか。
父の気持ち、母の気持ち、人に恋をするという気持ち。
決して憎み合って、別れたわけではない父と母。
その本当の想いを理解出来ただろうか。
星斗と出会わなければ、大切なことが分からないまま、怒りに満ちた人生で終えていたかもしれない。
あの夜、星斗と出会えた夜。
愛美の夫にマウントを取られ、初めての失恋を経験した最悪な夜。
そんな夜でさえ、星斗と出会う為だったんだ。
そう思えれば、星斗との軌跡が全て愛おしくなった。
もし、Sub dropの禁断症状を発症していなかったら、今度こそ、ただのDomとして星斗を愛したい。
眞門は素直に思った。
「・・・俺、なんだか、ここに来て、急に星斗とPlayするのが怖くなってきました・・・やっぱり、星斗とはまだ、さよならしたくないな・・・」
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