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明生と笹ノ間②
拓未の別宅があるテナントビルの屋上で、休憩を取る明生の元に、笹ノ間がやってきた。
「さっき、駐車場で知未さんと会いました。
星斗さんとPlayする許可をおじ様にもらいに来たそうです」
「そうか。
教えてくれてありがとう。
じゃあ、兄貴とちょっと話してくるわ」
と、明生は屋上から去っていこうとする。
「なあ、雫」
「はい」
「お前、俺のことが好きなのか?」
「・・・いいえ」
「そうか。じゃあ、俺が高校卒業するまで待ってろ」
「え?」
「卒業したら、結婚しよう」
「へ?」
「お前の居場所を作ってやるよ。
師匠の弟子と結婚するって言ったら、雫のご両親も少しは喜んでくれるんじゃないか」
「・・・どうして、あなたがそんなこと?」
「だって、お前、嘘つくの下手だもん。
お前、あの時泣いてたの、本当は俺に止めて欲しかったんだよな?
なのに、お前、『あなたの下手くそなPlayから、ようやく解放されると思うと嬉しくて』なんて、嘘つきやがって」
「・・・・・」
「でも、あの時は、俺も送り出してやることが雫の幸せなんだと思ったんだ。
確かに、雫に対する感情が恋愛感情か?って、聞かれたら、よく分からない。
そもそも、俺は人を好きになったことがないから。
だから、兄貴にもこんな酷いことが平気で出来るんだと思う。
愛している人を殺させるかもしれない、なんてことを」
「・・・・・」
「俺が唯一、はっきりと分かるのは、お前が居なくなって寂しいな、って感じたことだけだ」
「・・・・・」
「それじゃダメか?」
「・・・・・」
「師匠に聞いて確かめたよ。
お前の言う通り、俺は、とんでもない幸運が味方になってくれない限り、愛のあるPlayを経験することは一生出来ないらしい。
だから、お前が俺に寄り添ってくれないか。
いくら愛が分からない俺でも、ひとりで生きていくのは本当のところは怖いんだよ」
そう言うと、明生はどこか照れ臭そうに微笑み、星斗に会うため屋上から去っていた。
笹ノ間は明生の背を、何も言わずに見送った。
そして、明生がいなくなると、
「・・・ありがとうございます。
マスターのあなたにそんなことを言われるなんて、私はとても光栄です。
けど、それは私が求めている居場所ではありません。
あなたの気持ちに応えることは出来ません。
どうぞ、あなたは、あなたが寄り添いたいと思う人を見つけてください。
あなたに、いつか幸運が訪れることを祈っています」
と、返事をあえて口にする事で、明生への静かな恋心をこれで終わらせることにした。
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