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あなたのために出来ること

星斗は『Play Room』にある、ガラス張り小部屋の中にいた。 シャツにズボンといった、至って普通の格好で、眞門が来るのを待っていた。 星斗はここにやって来る前に、明生に打ち明けられた話をじっと思い出す。 拓未の別宅にある客室にいると、 「大事な話がある」 と、明生が真剣な顔つきでやって来て、突然、そう切り出された。 「兄貴にある暗示をかけた。 兄貴がSub dropを起こしかけたら、Safe wordを勝手に口走る暗示だ」 「どうしてそんなこと?」 「兄貴を守る為と眞門の名誉のためだ」 「・・・・・」 「兄貴が後で恨み言を言うのが目に見えてるから、その前に正直に伝えておく。 もし、眞門がSub dropの禁断症状を発症していたら、兄貴は眞門を殺すことになる」 「!」 「兄貴が眞門にとどめを刺すことになる」 「イヤだ、どうして、そんな勝手な事したんだよっ! 今すぐ、暗示を消せよ!!」 「それは出来ない」 「なんでだよっ、本人が消せって言ってんだから、今すぐ消せよっ! 大体、お前は弟のくせに、いつも生意気なんだよっ! 兄貴の俺にいっつも偉そうにしやがって・・・、なんで、お前のせいで、俺が知未さんを殺さなきゃいけないんだよ!!」 「ああ、ホントに生意気な弟が出しゃばってすまない。 悪いと思ってる。 けどな、よく聞いてくれ。 もし、発症してたら、眞門に待ち受けてる人生は最悪だ。 殺人者となりながら永らえるか、警察に捕まって精神を病むのを待つかのどっちかだ。 師匠の案は現実的じゃない。 そんな事しても、発症の度合いを遅らせるだけで、兄貴も雫もいつか、その犠牲になる。 師匠は大切な息子だから、眞門を守りたかっただけだ」 「・・・でも、俺は、そんなことを望んでないっ!」 「俺もだ。 俺も、発症していないことを祈ってる。 兄貴を別の形でも殺人者なんかにしたくない。 出来れば、代わってやりたいよ。 けど、兄貴にしか出来ないんだ。 これが、兄貴が眞門にしてやれることだ。 あの人を守ってあげられる」 明生は力強く星斗を見つめた。 「・・・・・」 その瞳を見ると、星斗は何も言えなくなった。 「もし、発症してなかったら、元の生活に戻れる。 俺たちはそれに賭けるしかない」 「・・・・・」 「俺が眞門の立場なら、兄貴に殺されたい。 最後のPlayで兄貴に触れながら、人生の幕を閉じるんだ。 兄貴もそうだろう? 兄貴もそうだから、サブドロされても良いって思うんだろう?」 「・・・・・」 「だったら、眞門の気持ちが分かってやれるよな?」 「・・・・・」 「今、眞門がここに来てるらしい。 多分、師匠に兄貴とのPlayの許可をもらいに来たはずだ。 兄貴、これが眞門との最後のPlayになるかもしれない。 その心積もりだけはしておけ」 星斗は明生の最後の言葉を思い出すと、 「どんな心積もりしておけって言うんだよ、簡単に言いやがって・・・。 あーあ、ホント、酷い弟を持ったよな・・・」 と、心の中で呟き、小部屋の外で見守る明生を思わず睨みつける。 あいつ、ホント、幼い頃から可愛くなかったんだよ。 出来の良い弟を持つ兄の立場になってみろって言うんだ。 いつか、必ず、バカ弟って呼んでやるからな。 てか、今度、母ちゃんに会ったら、絶対告げ口してやるから。 教師時代の笹ノ間さんと、とんでもないことをしてた事を絶対に告げ口してやるんだから。 一度くらい、酷い目に遭えば良いんだ。 そしたら、人の気持ちも分かるだろうっ。 てか、俺の性的なPlayを見るつもりかよ・・・。 ホント、どういう神経してんだよ、あいつ・・・。 星斗は眞門を殺すことになるかもしれない、そんなどうしようもない不安から、明生に八つ当たりすることでしか気を紛らわすことが出来なかった。 「!」 と、上半身裸の格好で、ショルダーリードをした眞門がホールに現われた。 落ち着いた足取りで、小部屋の中へと入ってくる。

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